団体交渉について

団体交渉の申入れは突然来る

 「団体交渉って労働組合とやる交渉みたいなものでしょ?うちは労働組合が出来るほど従業員はいないから関係ないよ。」

 そう思われる経営者の方もいらっしゃるかもしれません。

 しかし、そう考えるのは誤りです。

 一定地域ごとに組織している労働組合を合同労組(「ユニオン」」と称する組合が少なくありません。)というのですが、労働市場の売手市場化と共に、昨今ではこの合同労組から団体交渉の申入れが増えてきています。
 合同労組も立派な労働組合なので、法律上、労働組合として扱われ種々の保護を受けます。


 この記事をご覧になれている方の中にも、「合同労組から突如として団体交渉の申入れがあって困っている。」という方がいらっしゃるのではないでしょうか。


 労働組合から団体交渉の申入れがあるタイミングは、ほとんどの場合、従業員とトラブルになったときです。
 解雇、降格、減給、懲戒処分など、会社が従業員の不利益になる処分を行った後、しばらく経ってから、合同組合と当該従業員の連名での申入書が送付されてくるという具合です。

 団体交渉の申入書には、「貴社のやっていることは違法だ。」「労働基準監督署にも確認している。」「訴訟も辞さない」などと経営者からすると恐怖を感じるようなことが書いてあることも少なくありません。
 なかには、恐怖や面倒を回避したいという気持ちから「本当は応じる義務のないこと」まで応じてしまって、結果として組合の言いなりになってしまう経営者もいるかもしれません(実際に、経営に関する事項を制約する労働協約書に署名押印してしまうと言いなりになってしまう可能性が高いです。)。

冷静な対応が必要

 それでは、労働組合から団体交渉の申入れがあった場合、どうしたらよいのでしょうか。


 まずは、冷静になることです。そして、弁護士に相談することです。


 労働組合からの要求は、①法律的に応じなければならない事項、②応じなくてもよい事項、の2つに大別できます。
 たとえば、法定労働時間を超えて働かせているにもかかわらず割増賃金(残業代)を払っていないから払いなさい、という要求があったとします。管理監督者に該当するなど法律上の例外事由に当たる事実がなく、本当に割増賃金を払っていないのであれば、この要求には法律的に応じなければなりませんので、応じるべきということになります。
 他方で、賞与を10万円増額しろという要求があったとします。賞与はそもそも契約で定めない限り支払う義務はなく、仮に定めがあったとしても明確に金額の定めをしていないのであれば原則として会社の裁量で金額を決めることができます。(一定の賞与を支払うことが慣行となっている場合などの例外はあります。)。したがって、この要求には法律的に応じる義務はないということになります。

 ただ、法律的に応じなくてもよい要求でも交渉には応じなければなりません(誠実交渉義務)。
 不当労働行為といって、労働組合の活動は一定の範囲で法律上の保護を受けており、上述の誠実交渉義務のほか、たとえば労働組合の活動を理由として不利益な処分を行うことなどは禁止されています。
 この不当労働行為を行うと会社側には制裁が課されることがあります。

 また、ストライキ等の業務運営に支障を生じる行為についても一定の保護を受けますので、これらのことに留意して労働組合と交渉していかなければなりません。

 「何だか難しいな。」と思われる経営者の方もいらっしゃるかもしれません。
 
 しかし、要は、法律的に応じないといけないことには応じ、応じなくてもよいことについては労働組合の論拠を聴いて会社にとってもプラスになる提案なら受け入れればよいというだけのことです。
 労働組合を過度に恐れる必要もなく、労働組合と過度に敵対する理由もないのです。

 実際の交渉では、労務に関する法律知識が必要であることは当然として、相手となる合同労組・組合員(御社の従業員)それぞれの利害や訴訟等になった場合に想定される労使双方のリスクなどを勘案して適切な言動を決定する能力が必要となりますので、もし、合同労組から団体交渉の申入れ等がありましたら速やかに弁護士へ相談することをお勧めします。

具体例

 最後に、実際の交渉例を1つご紹介します(守秘義務の関係で以下の事案は実際のものから修正しています。)。

 2019年2月1日、突如、A合同労組からX社宛てに、

① 貴社従業員のY1、Y2、Y3が当組合に加入した。
② 2017年2月1日に賃金を減額する旨の賃金規程の改訂を行っているが、これは不利益変更に該当して無効であるから、改訂前の賃金と改訂後の賃金の差額の2年分である1000万円を支払え。
③ 貴社の上記賃金規程の変更が不利益変更に該当して無効であることは労働基準監督署にも確認している。
④ 誠実な対応がない場合には法的措置も辞さない。
⑤ 2019年2月15日15時から貴社の会議室での団体交渉に応じられたい。

 という内容の団体交渉の申入書が届きました。

 X社は対応に窮して弁護士に相談したところ、弁護士は、まず、②の要求に法的理由があるか検討するために、2017年2月1日の賃金規程改訂(減額改訂)時にどのような手続を執ったのか確認しました。

<法律解説>
 法律上、就業規則(賃金規程を含みます)を変更して一方的に賃金を下げることは原則として許されず、合理性の要件というものを満たす場合に限りで許されます(労働契約法第9条及び第10条。なお、就業規則の変更による不利益変更=絶対的に無効、かのように主張する労働組合もあるので注意が必要です。)。他方で、労働者の同意に基づいて労働条件を変更することは当然許されます(同法第8条)。
 労働者の同意については、裁判例には「自由な意思に基づく同意と認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する」ことを求めるものもあるので、実際の訴訟では、当時の会社が置かれていた状況や会社が労働者に対してどのような説明を行っていたのかなどの事実も問題となります。

 そうしたところ、X社から弁護士に対して、Y1ないしY3の署名押印がある書面(賃金の減額に応じるという内容)の提出があり、さらに弁護士が当該書面の作成されたときの状況を確認したところ、X社はY1ないしY3にそれなりに賃金減額の理由を説明していたと認められるが、証拠関係に照らすと訴訟で有効な同意があったと認定される可能性は20~30%程度であるとの心証を得ました。

 また、上記③の労働基準監督署の話については、組合側が自らに有利な事実のみを伝えて、それを前提に労働基準監督署が仮定的な判断を示したものであろうとの推測しました。

 上記⑤の要求については法律的には応じる必要がないので、2019年2月24日、公共施設において、X社の所定労働時間外である午後6時から行うということでA合同組合に通知しました。
 また、併せて、上記②に関する法律上の争点について会社側の主張を簡略に付記しました。

 A合同組合との団体交渉には毎回弁護士が同席し、複数回の交渉を重ねましたが、双方が妥結することはできず、Y1ないしY3はX社と相手に未払賃金の支払いを求める訴訟を提起しました。

 しかし、訴訟の開始後すぐにA合同組合側から300万円で和解する旨の提案がありました。弁護士は、判決まで進む場合のマイナスの期待値(ex.-1000×30%=-300)と和解する場合の期待値(ex.-300×100%=-300)を勘案し、X社には応じて悪くない旨のアドヴァイスを行い、さらにYらとの間で問題となっていた訴訟にはなっていなかった他の事項についても併せて和解してはどうかとアドヴァイスしました。

 その結果、X社とYらとは訴訟外で和解し、Yらは訴えを取り下げました。

 その後もX社とA合同労組との交渉は続いていますが、当初に比べると交渉の苛烈さは低減し、ある程度温和なムードの中で話し合うようになりました。

団体交渉の費用

 顧問契約の締結を前提として、2時間以内の団体交渉1回の立ち会いにつき4万円(税抜き)
※ 団体交渉開催地が遠方の場合には、別途交通費も必要となります。
※ 未払残業代の請求や解雇の有効性を争われている事案など、個別具体的な請求がある場合には、当法人の<一般事件の弁護士費用>を基準に別途着手金・報酬が発生します。

 

 

              

 

 

 

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