セクハラ・パワハラ対応

1 最近の動向

 2019年5月に成立したパワハラ防止法(正式名称は改正労働施策総合推進法(以下、「法」と言います。))が2020年6月1日から施行されました(従業員数300名未満の中小企業については2022年3月31日までの2年間は努力義務)。
 これにより、企業にはパワハラ防止措置等の義務が課せられることになりました。罰則はありませんが、厚生労働大臣の勧告に従わなかった場合には企業名が公表されることになっており(法33条)、「パワハラ企業」のレッテルを貼られた企業は致命的なレピュテーションリスクを負うことになります。
 セクハラについては相当以前から男女雇用機会均等法等において企業のセクハラ防止義務について定められていますが、一向にセクハラトラブルは無くなっていません。労働市場における売手市場が継続すると見込まれるなか、優秀な女性からそっぽを向かれるようでは競争力を失いかねません。
 ハラスメント問題を放置する会社は生き残れない時代が到来しつつあるといえるでしょう。

 

2 適法・違法の判断

(1)限界を「知る」

 まずは、どこからがセクハラ・パワハラで、どこまでがセクハラ・パワハラではないのかを知らなければ対策のしようがありません。

 具体例については厚生労働省が出しているガイドラインで学ぶこともできますが、裁判例を学ぶのが最も有効です。

 

(2)判断基準の概略

 パワハラよりもセクハラの方が該当性判断は容易です。基本的に職場における業務上必要のない性的な言動は全てセクハラという認識で

問題ありません。考え方としてはシンプルで、「その性的言動は職務遂行上必要ですか。」という問いに対して「必要です。」と

答えられないものはほぼセクハラです。


 これに対し、パワハラの該当性判断は難しいです。基本的に性的言動は業務の遂行に不要であるのに対し、叱責は業務の遂行に必要だからです。パワハラの法律上の定義は以下のとおりです。


  (雇用管理上の措置等)
  第三十条の二 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を

                        超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、

                        適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

 

 この定義をご覧いただければ分かるとおり曖昧です。
 このような場合、限界事例(ギリギリ違法となる事案)を知っておくと、その限界事例以上に悪質な場合はパワハラに該当すると判断しやすくなります。


 たとえば、裁判例において、上司が部下に対し、①残業しているのを発見し、「何やってんの?何時間掛かってんの?」と大声で叱責した、②「金庫室をいつまでも開けておいたら防犯上良くないことくらいあほでも小学生で分かるやろ!」と大声で怒鳴り、弁解を遮って「言い訳はえんじゃ」と感情的叱責を繰り返した、③「仕事が遅い。前任者と比べて時間が4,5倍かかっている。能力が劣ってんな。」と叱責したという事案で、②及び③がパワハラと認定されています(なお、①も「適切ではない」とは判示されています。)。

 

3 初動対応

(1)はじめに

 「弁護士から通知が来た!」「裁判所から訴状が来た!」という事態にまで発展するケースのほとんどは、初期対応で失敗しています。


 体制面でいえばそもそも相談窓口がないという例もありますが(この場合、即、弁護士や労働基準監督署などの「外部」に問題が広がっていきます。)、①被害申告を無視する、②被害申告を聴くだけ聴いて調査をしない、③調査はするも被害者には何も報告しない、④調査の結果、セクハラ・パワハラの事実が判明しても何らの措置も講じない、などが失敗対応の典型です。

 

(2)対応のセオリー(ゴールデンルール)

 基本的には、①被害者からのヒアリング、②①に基づく証拠関係調査(目撃者からのヒアリング及び陳述書の作成、メール等の保存など)、

③加害者からのヒアリング、④①ないし③に基づく事実の認定、⑤④によって確定した事実を前提とした加害者の処分(処分の公表を含みます。)と被害者への通知、⑥再発防止措置の実施という流れになります。


 大切なことは、各過程においてきちんと記録を残しておくことです。いつ、どこで、誰に、どのような状況で(特に周りに誰がいたのか)、何をされたのか、またそれはなぜなのか、加害行為のあった前後の状況、などを細かく聞き取り記録にします。
 事実認定や処分(措置)の決定は法律専門家ではないと難しい場合が少ないので、適時、顧問弁護士等の援助を受けるようにするとよいでしょう。

 

4 防止措置

 セクハラにしてもパワハラにしても加害者を処分して終わりではありません。その発生原因を分析し、再発防止策を打たなければなりません。冒頭で述べたとおり、セクハラだけではなくパワハラについても防止策の実施は明文の法的義務となりました。


 ハラスメント防止措置については厚生労働省が出しているガイドラインや指針にしたがって、①方針の明確化と周知、②相談窓口の設置と相談担当者の教育等体制の整備・充実、③有事の際の事実調査、及び処分・公表・研修の実施等再発防止策の実施などを行っておけば、大きな問題は生じないといえるでしょう。

2021年2月23日時点

 

 

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