公判について

公判とは,裁判所で,裁判官,検察官,被告人(弁護人)が出席して,原則として,誰でも傍聴可能な公開の法廷で,起訴された事実につき審理(証拠を取り調べて事実関係を明らかにすること)を行う手続のことを言います。
 
また,公判を行う日を公判期日と呼びます。何回かの公判期日に分かれて審理が行われ最後に判決が下されます。

開廷回数については,自白事件(犯罪を認めている事件)と否認事件(犯罪を認めていない事件)で大きく異なります。統計上,自白事件の平均的な開廷回数は2.4回程度(期間でいうと2.7か月),否認事件の平均的な開廷回数は7回程度(期間でいうと8.9か月)となっています。

多くの事件は自白事件であり,1回の公判期日で審理を終結し(結審),2週間後くらいに判決という流れになります。なお,被疑者は起訴された時点で被告人となり,被告人について,逃亡や証拠隠滅の可能性があると判断された場合,裁判所は,被告人を勾留することができます。

起訴後の勾留期間は,起訴前の勾留とは異なり,原則は起訴された日から2か月で,必要があれば1か月ごとに更新されます。

更新は原則として1回とされていますが,犯した罪が重大である場合や被告人が逃亡する可能性があると判断された場合は,数回あるいはそれ以上続けて認められることもあります。このような身体拘束に対して,被告人,親族,弁護人などは保釈を請求できます。

裁判所が保釈を許可してくれても保釈金を納めないと釈放されません。刑事裁判の中心は公判期日における手続です。手続の流れは概ね以下のようになっています。
 

(1)冒頭手続

冒頭手続では,人定質問→起訴状の朗読→黙秘権の告知等→被告人・弁護人の被告事件についての陳述という順番に手続が進みます。
 

人定質問

まず冒頭手続は人定質問と呼ばれるものから始まります。この質問は,裁判長が出廷している人物に対して,主に氏名,生年月日,本籍,現住所,職業などを聞くことで,被告人に人違いはないかを確認するために行われます。

まれに,被告人が,人定質問に対して,氏名を黙秘することもあります。この場合,捜査段階における被告人の写真などを用いて,人違いでないか確認するという運用がとられています。 
 

起訴状の朗読

次に,検察官が,起訴状を朗読します。起訴状には,被告人が犯した罪の内容が,「公訴事実」として具体的に記載されています。つまり,起訴状朗読は,検察官が被告人の犯した罪の内容を具体的に読み上げるのです。

この手続は,審理の対象を明らかにし,被告人に対して十分な防御権を行使させるために必要不可欠なものです。したがって,被告人が外国人の方であれば,通訳を付さなければならないとされています。

なお,起訴状の朗読後,起訴状の内容に不明確な点があれば,弁護人は裁判所に対して求釈明を申し入れること(つまり,弁護人が,裁判長を通じて,検察官に対して,不明確な部分を明確に説明するように申入れをすること)ができます。
 

黙秘権の告知等

起訴状朗読の後,裁判所は,被告人に黙秘権などの権利について告知をします。通常,「言いたくないことは言わなくても良い。」という趣旨の説明がなされます。このことによって,被告人の公判廷における供述内容の信用性が担保されるのです。黙秘権の範囲ですが,判例では,氏名にまでは及ばないとされています。
 

被告人・弁護人の被告事件についての陳述

最後に,被告人・弁護人から,被告事件についての陳述がなされます。いわゆる罪状認否というものです。
具体的には,公訴事実について,起訴状に書いてある罪の内容が事実かそうでないか,実際に犯罪を行ったことを認めるか認めないかなどの陳述がなされます。
 

(2)証拠調べ手続

冒頭手続が終わると,証拠調べ手続に移ります。
証拠調べ手続では,冒頭陳述→証拠調請求→証拠調請求に対する意見→証拠の取調べという順番に手続が進みます。
 

冒頭陳述

証拠調べ手続では,まず検察官が冒頭陳述を行います。紛らわしいですが,先ほど述べた冒頭手続とは別の手続きになります。
 
冒頭陳述とは検察官が証拠によって証明しようとする事実を述べることです。通常の事案では検察官による冒頭陳述がなされるのみですが,法律上は,弁護人も冒頭陳述を行うことができるものとされています。事実が複雑であったり事実を積極的に争うような場合に,弁護人から冒頭陳述がなされることがあります。
 

証拠調請求

その後,検察官及び被告人・弁護人から,証拠調請求が行われ,裁判官に取調べて欲しい証拠の採用の請求がなされます。実務上,検察官が証拠調べの請求をする場合には,証拠等関係カードと呼ばれる書面を用いて,その証拠は何であるのか,その証拠で何を証明しようとしているのかなどを明示することになります。
 

証拠調請求に対する意見

裁判所は,検察官あるいは弁護人から,証拠調請求がなされると,その証拠を取調べるか否かの判断をしなければなりません。その際,裁判所は,相手方となる当事者,つまり,検察官請求証拠であれば弁護人,弁護人請求証拠であれば検察官の意見を聞かなければなりません。

具体的には,証拠能力の有無,証拠調べの必要性・相当性,証拠調べの順序などにつき,意見を聴取します。これらの意見を前提に,証拠決定がなされます。
 

証拠の取調べ

裁判所は,当事者の意見を聞いたうえで,採用すると認めた証拠の取調べを行います。裁判官は,検察官や弁護人が提出してきた証拠を確認し,自らの判断で事実を認定します。日本では,事実の認定は証拠によるという証拠裁判主義と証拠の証明は裁判官の自由な判断に委ねるという自由心証主義が適用されているからです。

証拠は大きく物証,書証(供述調書等),人証(証人尋問)に分かれています。被告人質問もこの段階でなされます。裁判官は,これらの証拠を確認して,起訴事実に対する判断をします。
 

(3)弁論手続

証拠調べ手続が終了すると,弁論手続に入ります。弁論手続では,まず,検察官が,証拠調べ手続きを踏まえて,事実及び法律の適用について意見を述べます。

検察官が被告人の犯した罪の大きさや動機,結果を述べ,起訴状記載の犯罪に関して,懲役何年が相当などと意見を述べ,処罰を求めます。これを論告・求刑といいます。
 
この意見の後に弁護人が,起訴状記載の犯罪について,被告人に有利な事情等の意見を述べます。これを一般的に弁論といいます。弁論の方法は,法廷において口頭で行うこととなっています。

弁論の目的は,これまでの裁判にでてきたすべての事情を集約し,裁判所に対して,被告人に有利な判決を要請することです。したがって,弁論が被告人の権利を擁護するために,非常に重要であることは間違いありません。
 
具体的な内容ですが,大きく分けると,検察官の主張及び被告人に不利益な証拠に対する反論と,被告人の言い分を積極的に主張する部分とに分けられます。
 
そして,弁論の最後に,まとめとして,「寛大な判決を求める。」とか「執行猶予付きの判決を求める。」などの意見を述べます。
 

(4)判決の宣告

裁判は原則として,有罪判決(刑の内容も定められます。)または無罪判決をもって終わります。
 
民事訴訟では,判決の言渡しは判決書の原本に基づいて行われ,当事者が在廷しなくても行われますが(むしろ,欠席するケースが多いです。),刑事訴訟は,基本的には当事者全員が出廷した公判廷において裁判長が口頭で宣告して行います。判例上は,判決の宣告期日に,弁護人が出頭することは不可欠でないとされていますが,被告人は,判決宣告時まで,不安を抱えているのが通常ですので,弁護人も出頭する運用となっています。

判決では,刑または刑の免除の「主文」と,「理由」が述べられます。
主文では

●刑(有期刑は刑期を定める)
●執行猶予および保護観察(執行猶予期間を定める)
●罰金・科料につき労役場留置1日の換算額,仮納付
●没収,追徴
●未決勾留日数の本刑算入(実際に勾留した日数のうち刑期に算入する日数を定める)
●訴訟費用の負担

などが言い渡されます。
 
また,理由としては,罪となるべき事実,証拠の標目及び法令の適用が示され,法律上犯罪の成立を妨げる理由または刑の加重減免の理由となる事実が主張されたとき(例えば,正当防衛の主張)は,これに対する判断も示されます。

罪となるべき事実とは,被告人が犯した行為で,犯罪の内容(構成要件)に当たるような具体的な事実のことです。
 
以上が,第一審の公判手続の流れになります。

 

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