従業員との金銭トラブルを解決した事案
事案の概要
A社は、従業員Bが入社するにあたって金銭的な余裕がないとのことであったため、Bに対して引越費用等にあてるためのお金を貸しました。その後も生活が苦しいとの話があれば、Bに対して数万円ずつお金を貸して、総額60万円程度の金額になりました。
従業員Bは、約2年間在籍した後、同業種の起業のために退職することになりましたが、A社が退職時に返済を求めると、「60万円も借りていない」と「最初のお金は援助してもらったもの(もらったもの)」などと主張し始めました。
借用証書もなかったことから、A社は今後の返済について不安に感じ、弁護士へ相談することにしました。
解決までの経緯
A社の代表者から詳細な状況をヒアリングしたところ、銀行の振込履歴等から、総額がA社主張のとおり総額60万円程度であることは客観的に明らかでした。
また、従業員BがA社に入社をした経緯についても、職を失って困っていたBの強い要望に応じるかたちで、温情的な意味合いもあってA社の代表者が採用を決断したというものでした。要するに、A社にとってBは個人的にお金を援助(贈与)してまで採用したいほどの人材ではありませんでした。
ラグーンでは、A社の代理人として、A社がBに贈与をする理由はない=A社からBへのお金の交付は返済を全体とした貸付であるということを内容とする内容証明郵便を郵送しました。
Bは当初、返済を拒否するような姿勢をみせていました。そこで、振込履歴等の資料を示すとともに、あらためてA社の見解と根拠を丁寧に説明したところ、最終的に全額の支払を約束したため、公正証書を作成し、無事解決となりました。
弁護士の目
近い関係にある人との契約については口頭による合意のみで書面を交わしていないケースが多くあります。毎日顔をあわせている人間同士だと、ある程度の信頼関係があったり、あまり大げさなことはしたくないとの心理が働くためです。
しかし、いつまでも信頼関係が維持されるとは限りません。時間が経過すると合意内容も曖昧になります。お互いが自分にとって有利になるように記憶を上塗りしていくこともあります。
書面を残さなかったがゆえに、言い争いになり、無駄な労力を費やし、最悪泣き寝入りせざるをえなくなります。
誰もが分かっていて、理解をしている書面作成の重要性ですが、実践の難しさを再認識した事案でした。