刑事事件と民事事件の違い

(1)刑事事件と民事事件の違い

刑事事件と民事事件の違いとして,刑事裁判と民事裁判のそれぞれの手続が大きく異なっているという手続上の違いを挙げることができます。
刑事裁判は,国を代表する検察官が,民事裁判でいう原告の立場に立って,罪を犯したと疑われる者を裁判所に訴え(起訴),死刑や懲役,罰金などの処罰を求め,これに対して,裁判所が判断を示す手続です。
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刑事裁判では,基本的に,検察官のみが起訴権限を有しています(起訴独占主義・国家訴追主義)。これは,後述の,誰でも自由に訴訟提起ができる民事裁判との大きな違いの一つであるといえます。
なお,経済犯罪などで,会社などの法人が罪(個人の犯罪を防止しなかった責任)を犯したと判断されて訴えられ罰金に処せられるケースもありますが,基本的には個人が訴えられ,処罰されるのです。ですから,会社が行った行為だから,自分は対象にならないと考えるべきではありません。

会社の取引などで責任を問われるケースでは,仮に会社役員になっていなくても,責任を問われる可能性はあります。

例えば,実際には,その人が会社の資金や人事など重要な事項について最終的な決定権を有し,犯罪とされる取引などを指揮し統括していたという事情が認められるような場合には,実質的な経営者と判断され,捜査や公判,さらには処罰の対象とされますし,犯罪の中心的役割を果たした首謀者として厳しい判断が下されることがあります。
いずれにしても刑事事件に関して,国(権力)は大きな強制力をもっており,比喩的に表現するとすれば,国家を上に考えると訴えられた被告人が下になり,上下の関係となります。

このような関係になっている理由は,刑事裁判の目的が公共の福祉(秩序)の維持にあるため,国家が強制力をもって,犯罪を行ったとされる被告人に対して,しかるべき処罰を与えなければならないからです。対して,民事裁判は,私人(個人や法人)が私人を訴えて,裁判所に紛争の解決を求める手続です。
刑事裁判とは異なり,どちらが上でどちらが下という関係にはなく,基本的には対等の立場に立つことが保障されている手続であるといえます。これは,社会生活上の法的な紛争に対して,どちらの言い分が正当であるのか,裁判所が公平な立場から判断を示す手続であるため,一方に対して,強力な権限を与えてしまっては不公平になってしまうからです。

(2)和解についての違い

刑事裁判では,検察官が被告人を犯人であると証明できない場合には無罪とされ,被告人は処罰を受けないことになります。しかし,犯人であると立証された場合,被告人は死刑から懲役,禁錮,罰金などの刑に処せられることになります。
検察官と被告人・弁護人とが話し合って和解をすることはありません。「相場から言えば懲役3年が相当だけど,被告人は色々な情報を提供してくれたから,懲役1年6月ということにしましょう。」というようなことはないのです。

(3)刑事事件と民事事件の強制力などの違い

刑事事件の場合,警察や検察などの捜査機関には,被疑者・被告人の身柄を確保したり,犯罪を裏付けるための証拠収集を行うために,裁判所から令状を得た上で,自ら逮捕,勾留,捜索,差押えなどを行うことができる強力な権限が与えられています。
民事事件の場合は,事前に証拠を保全するためにも裁判所の判断を仰ぎ,裁判所の保全手続の下で執行官に依頼する必要があります。

(4)裁判員制度に関する違い

近年,頻繁にマスコミによる報道がなされている裁判員制度も,刑事裁判における特徴的な制度です。
裁判員裁判では,一般市民が,裁判員として一定の重大な刑事裁判に参加し,被告人について,有罪・無罪の判断及び有罪だとしたらその量刑をどのようにするかを判断します。
民事裁判では,裁判員制度は採用されていません。
このような判断主体についても,刑事裁判と民事裁判では違いがあります。  

(5)刑事事件と民事事件の共通点(被害者参加制度+損害賠償命令申立制度など)

刑事事件と民事事件の共通点もあります。
今までは,刑事裁判と民事裁判は別々に行われていましたが,最近,制度が変更され,被害者の遺族が刑事裁判に参加し,被告人に対する質問や処罰を求める意見を述べることができるだけではなく,刑事事件の裁判を行った裁判官によって損害賠償を命じて貰える損害賠償命令申立事件に移行して貰うことができるようになりました。
なお,これら被害者参加制度や損害賠償命令申立制度は,新しい試みですし,対象犯罪も限られ,手続面も限定的ですので,できれば代理人として弁護士を選任されて手続を有効に生かされることをお勧めします。

(6)証拠関係についての共通点

刑事事件と民事事件とが,同じ事実関係にあれば,証拠関係は基本的に同じものになります。
もっとも,刑事裁判においては,厳格な立証を求められることとの関係で,伝聞法則,自白法則,違法収集証拠排除法則といった,証拠能力を制限する(つまり,事実認定には用いない)規定があります。したがって,一般的には,刑事裁判の場合,民事裁判に比べて,提出可能な証拠の範囲は制限されているといえます。
いずれにしても,刑事裁判において,検察官が提出した証拠関係に対し,被告人側が反対の証拠を提出する場合や,民事裁判において証拠を提出する際にも,事実関係を明らかにするため,しっかりとした証拠を収集し,それに基づいて裁判所を納得させることができる合理的な事実主張を行う必要があります。

 

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