有責配偶者からの離婚請求について

第1 民法の離婚原因と最高裁判所の見解

 民法770条1項5号は、「婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」を離婚原因の一つとして挙げています。これは、文言上、婚姻の破綻という結果さえ存在すれば、その原因の如何を問わず離婚を認めるかのように解されます。

 しかし、最高裁判所は、昭和27年2月19日判決以来、婚姻が客観的に破綻していたとしても、婚姻の破綻につき、もっぱら、あるいは主として有責な配偶者からの離婚請求は認めないという立場を維持してきました。つまり、不貞行為を行った者からの離婚請求は、原則として認められないということです。

 

 しかし、その後、最高裁は昭和62年9月20日の判決で、有責配偶者の離婚請求であっても「夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び、その間に未成熟の子が存在しない場合には、相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない限り、当該請求は、有責配偶者からの請求であるとの一事をもって許されないとすることはできない」との判断を示しました。
 
つまり、最高裁は、①別居期間が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当長期であること。②未成熟子がいないこと。③相手方にとって離婚が過酷でないこと。という3つの要件をみたす場合には、有責配偶者からの離婚請求も認められる余地はあるとしたのです。以下では、この3つの要件について少し説明を加えることにします。
   (1)まず、未成熟子(②)とは、親による監護を必要とする子のことをいいます。
      (2)次に、③の要件について説明します。
この点、精神的な過酷状態及び社会的な過酷状態は、慰謝料で解決可能と考えられます。そして、経済的な過酷状態については、財産分与や離婚後扶養などの離婚給付で解決されます。

      (3)最後に、①の要件について説明します。

 

ここでは、「相当長期の別居期間」とは一体どれくらいの期間をいうのかが問題となります。この点、最高裁は、当初は別居期間が約30年というケースにおいて離婚を認めましたが、順次、約22年、約16年、約10年3ヵ月と短縮され、最短では約8年のケースにおいて、離婚を認めています

また、高等裁判所の判決では、別居期間が約6年というケースにおいて離婚を認めたもののあります。
他方で、最高裁は、事情によっては、別居期間が約8年、約11年に及ぶ場合に、離婚を認めなかったというケースもあります。
このようにしてみると、今のところ最高裁は、8年の別居期間を一つの限界と考えているといえます。
 
以上
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