第46回メルマガ記事「企業の損害」2019.11.28

 弁護士の内田です。

 

 皆さんは、あとで消すかもしれない字を書くとき、シャープペンシルを使っていますか。それとも、鉛筆を使っていますか。

 

 私は、鉛筆派です。弁護士は鉛筆派が多いようです。

 

 鉛筆は、先が丸くなったら削らなければなりませんし、削るのが面倒であれば何本かストックしておかなければならず、一見、利便性においてシャープペンシルに劣るように思われます。

 

 それでは、なぜあえて鉛筆を使うのか。

 

 それは、やはり「書きやすい」からだと思います。シャープペンシルよりもサラサラと書くことができます。

 

 普段、シャープペンシルを使われている方は、騙されたと思って、是非、鉛筆を使ってみてください。言葉では表現しがたい鉛筆の「良さ」が分かっていただけると思います。

 

 

 さて、本論ですが、今回は、企業の法的損害賠償についてお話します。

 

 

 「他人(他社)から自社の設備・商品を壊された」「先方が契約に違反したことが原因で、本来得られるはずであった利益を得ることができなくなった」など、企業が損害を被った場合、相手方に対して訴訟においてその賠償を求めるためには、①相手に法的責任があること、②発生した損害額(厳密には、これに加えて相当因果関係)を主張立証しなければなりません。

 今回は、この②についてお話します。

 

 前述の例で、「物を壊された。」という場合、その物自体の損害賠償額はどのように算定するのでしょうか。

 

 「買ったときの値段」・・・では勿論なく、「壊されたときの時価」が原則になります。それでは、「時価」はどのように算定するのかという話になりますが、それは再調達費用という考え方で算定します。つまり、同種同等の当該物を市場で入手するためにはいくらくらいかかるのかということです。

 

 たとえば、自動車であれば中古車販売サイトで同種同等の自動車の掲載ページをプリントアウトして、「時価はこの金額だ。」などと主張します(レッドブックというある程度の範囲でおよその相場価額が記載された書籍もあり、これが提出されることも少なくありません。)。

 

 難しいのは、「企業の逸失利益」です。

 

 たとえば、X社の役員Yが退職後の競業避止義務を負っていたにもかかわらず、退職後、X社の顧客A社を奪って事業を開始したとします。

 X社のA社に対する直近の年間売上が1000万円だった場合、X社の損害をどのように算定したらよいのでしょうか。

 

 X社としては、YがA社を奪取しなければ半永久的に取引は継続していたのであるから、少なくとも売上の30年分、3億円くらい請求したいと考えるかもしれません。

 

 しかし、法律的には、この請求が認められることはないでしょう。

 

 逸失利益を考えるに当たっては、①算定の基礎となる金額を「売上」とするのか「利益」とするのか、さらに「利益」とするのであれば営業利益、経常利益などどの利益を基準にするのかという問題と、②基礎となる金額に何年分を掛けるのかという問題の2つがあります。

 

 まず、①ですが、裁判例でも見解は分かれていますが、「限界利益」を基準とする見解が多いように思います。限界利益とは、会計上の概念で、売上-変動費で算出されます。たとえば、X社のA社に対する売上が年間1000万円、変動費が700万円だった場合、300万円が限界利益になります。

 理論的には、X社はA社との取引を失ったことにより売上も失いましたが、他方でA社と取引で発生する変動費の支出も免れているので、X社の逸失利益は限界利益で捉えるのが妥当といえます。

 

 さらに厳密には、会計用語でいうところの「貢献利益」を基礎とするのが妥当と考えられます。貢献利益は、限界利益から個別固定費を控除した金額です。

 個別固定費とは、特定の取引先・事業に対応した固定費です。これについても取引の喪失によって支出を免れるのであれば控除するべきだと考えるのです。

 

 以上が理論的な損害賠償論ですが、実務上、この立証は困難を極めます。まず、取引先単位で限界利益や貢献利益を管理している会社は少ないので、一からA社の取引に関してのみ限界利益や貢献利益を算出する作業から始めなければなりません。また、その数値の裏付けとなる発注書、受注書、請求書、通帳の写しなど原資料の整理にもかなりの労力を要します。

 また、事実上、相手に自社の利益率を知られたくない、裁判で自社の利益率を公にしたくないということもあるでしょう。

 

 また、上記損害賠償論とは別に、「通常損害」か「特別損害」かという点が前提問題となります。民法上、損害賠償の原則は通常損害であり、通常損害とは、その名前のとおり、債務不履行によって通常生ずるといえる損害です。これに対し、特別損害とは、特別の事情によって発生した損害を言います。特別損害について、特別の事情について相手方の予見可能性があったといえなければ損害賠償請求できません。

 しかしながら、どこまでが「通常損害」でどこからが「特別損害」なのか、その境界は曖昧なところです。

 

 以上のとおり、企業が相手の債務不履行で損害を被った場合に訴訟でその回復を求めるとなると、損害額立証の壁が立ちふさがることになります。

 

 これを避けるには、①予め保証金を受領しておき、損害が生じた場合には相殺によって回収する(但し、この方法を採っても、相手が不当に多く保証金を取ったと主張して争ってくれば、結局、損害の立証を避けることはできません。)、②損害賠償額の予約をしておく、という方法を採る必要があります。

 

 ②の損害賠償額の予約とは、契約書等において債務不履行があった場合には〇〇万円を賠償するというように予め賠償額を決めておくことです。そうすると、厳密な意味での損害額を立証しなくてもよくなります。

 但し、予約していた損害賠償額は実損害に比べて著しく高い場合には、当該条項は無効と判断されることがありますので、現実的に想定される損害額から大きく乖離しない金額に設定する必要があります。

 

 

 いかがだったでしょうか。

 

 企業の損害賠償訴訟は個人の場合に比べて難しい面が多く、なるべく訴訟にならないように交渉で解決する方が合理的といえます。


 

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