第61回メルマガ記事「人事権の限界」2021.2.25

 

 

 弁護士の内田です。 

 

 不動産関係事件の基本的な実体関係を確認する、新たに取引することになる会社の信用度を測る、強制執行により換価可能な不動産を探索するなどの目的で不動産登記簿謄本を取得することが多いのですが、今は、登記情報提供サービスというweb上のサービスで簡単に不動産登記簿謄本の“ようなもの”(公証印がないので正式な手続では使えません。)を取得することができますし、判例検索なども今は全てweb経由で出来てしまいます。

 法曹界にもwebがかなり浸透してきているわけですが、遂に、訴訟もwebで行われるようになってきています。

 

 今までは、基本的には主張や証拠は全て書面で提出し、裁判官から「提出されている書面のとおりご主張されますね。」と言われ、「はい。」と答えるだけのためにわざわざ裁判所に赴くという非効率な運用がなされてきましたが、このような運用も徐々に変わりつつあります。

 

 それはそれで望ましいことですが、やはり、私は紙の方に慣れていますので書籍や書面をPDFなどで見てもあまり頭に入ってきません。書き込みしたり付箋を貼ったり・・・はPDFだと“やりづらい”です。

 読者の皆様の中も「紙派」が多いのではないでしょうか。

 

 私自身、PDFで本を読み、紙媒体の本を読むのと同程度に記憶し、理解できる、というのは全くイメージできません。ですが、最近の若い人たちはむしろ紙の方に慣れておらず、デジタルの方が頭に入ってくるのかな、とも思います。

 地球環境のことを考えると「デジタル派」になった方がよいのでしょうが、悩ましいところです。

 

 

 さて、本日のテーマは「人事権の限界」です。

 よく人事権という言葉を耳にすることはありますが、これは法律にそのような定義があるわけではなく、雇用契約上の指揮命令権に基づき職務変更や勤務地の変更(いわゆる「転勤」)などの人事に関することを命じることができる権利を総称して人事権と呼んでいます。

 雇用契約の本質的要素は、労働者は使用者に対して使用者の指揮命令にしたがって労務を提供し、使用者は労働者に対してその対価として賃金を支払うことにあります。

 では、使用者である会社は賃金さえ払えばどのような指揮命令、すなわち人事権の行使も可能かというと・・・勿論、一定の制限があります。

 今回は、この人事権の限界について簡単に解説したいと思います。

 

 Y社がXを東京本社から福岡支社に異動(転勤)させたいとします。上述のとおり、会社は労働者に対して指揮命令権の1つとして職務地の変更を命じることができますので、“原則”としてXはY社の命令にしたがって福岡支社に転勤しなければなりません。これに違反すると懲戒処分事由になり、何度も命令に従わない場合は最終的には解雇になります。

 

 XがY社の転勤命令に応じなくてよくなる“例外”は、大きく2つに分かることができます。

 

 1つは、①雇用契約上の“縛り”がある場合である。つまり、雇用契約において勤務地の制限がある場合ですね。勤務地を「東京本社」と限定して雇用契約を締結している場合、Y社はXの同意がなければ福岡支社に転勤させることはできません。

 これは、「契約は守らなければならない。」という分かりやすい帰結です。

 

 もう1つは、判例(抽象的には現行の労働契約法第3条第5項)です。最高裁昭和61714日判決なのですが、内容を要約すると、①当該転勤命令につき業務上の必要性がない場合、②当該転勤命令が他の不当な動機・目的でなされたとき、③労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき、などの特段の事情がある場合には権利濫用として転勤命令は無効になるとするものです。なお、業務上の必要性は高度なものが要求されるわけではないとも判示しています。

 ①と②はセットとして問題となることが多いです。会社が労働者に対し、労働組合活動に対する報復や退職勧奨のために転勤命令を使った場合がこれらに該当するものとして判断されます。

 労働者には職務遂行能力の欠如がある一方で労働組合活動もしているという場合、転勤命令が能力に合致した支社への転勤を目的とした適法なものなのか、組合活動に対する報復という不当な目的に基づく違法なものなのかは判断に迷うことになりますが、最終的にはどちらの目的が「主たる目的」であったかによって決せられます。

 

 分かりにくいのが③で、では具体的にどの程度の「不利益」を課すと「通常甘受すべき程度を著しく超える」ことになるのかがよく分かりません。

 これについては、裁判例を学ぶほかなく、裁判例を全て紹介することはできませんが、ここでは大まかな傾向についてだけ解説します。

 結論として、通勤時間が長時間になる、配偶者と子と別居して単身赴任になる、若しくは配偶者と子も転居しなければならなくなる、などの事情だけではほとんどの場合「通常甘受すべき程度を著しく超える」との判断はなされていません。

 他方で、労働者本人、又はその扶養親族が疾病に罹患しており、その症状や治療に対して何の配慮もしていない転勤命令は、「通常甘受すべき程度を著しく超える」と判断されることが多いようです。

 察するに、裁判官は基本的に3年に1度の割合で転勤がありますので、転勤については厳しく、「健康なら多少の転勤は我慢しなさい!ただ、病気を引きずってまで我慢しなくてもいいけど。」といった価値判断をしているのかもしれません。

 

 

 いかがだったでしょうか。

 転勤命令→応じないので解雇、といった対応することが少なくないですが、転勤命令が無効になると当然それを前提とする解雇も無効になるので、会社は遡って賃金を支払わなければならなくなります。

 会社の自由と思われがちな人事権行使ですが、それなりにリスクもありますので慎重さを欠かないようにしましょう。

 

 

  • 下関の弁護士による無料相談会

    11月27日(土)10:00~17:00

  • 下関の弁護士による無料メールマガジン
  • 下関の弁護士 弁護士法人ラグーン採用情報
無料法律相談会

11月27日(土)10:00~17:00

  • 無料メールマガジン
  • 採用情報