第69回メルマガ記事「労働時間の認定」2021.10.28

 

 弁護士の内田です。 

 

 寒くなってきましたね。年々、「春」と「秋」が無くなってきているように感じます。

 

 寒くなってくるとサボり気味になってくるのが「運動」です。夜にランニングしていたのですが、最近、サボり気味です。夜は「仕事終わりで疲れている」ので体が進まないのかと考え、朝に走ろうと試みたのですが、心理的・肉体的にもっと無理でした。

 

 何となくの「健康のための運動」でやっていることなので、日々、特に不調を感じなければ「今日は、まぁいっか」となってしまいます。今、必要なのは「心を燃やせる具体的な目標」です。

 そこまでは分かっているのですが、特に目標という目標を立てられません。日々、トレーニングに励まれているビジネスパーソンがどのようにモチベーションを維持しているのか・・・教えてもらいたいものです。

 

 

 さて、本論ですが、本日のテーマは「労働時間の認定」です。

 実務上、極めて重要な論点であり、労働時間の認定がどのようになされているのかを知らないと、不測の残業代を支払い、資金繰りが狂ってしまった・・・ということにもなりかねません。

 

 まず、なぜ労働時間の認定が実務上重要かという点ですが、これは当然、「残業代」に関わってくるからです(法律的には「割増賃金」というのが正しいですが、皆さんが耳慣れている「残業代」という言葉で話を進めます。)。一部の例外的な場合を除き、原則として、1日8時間、週40時間を超えて働かせると残業代が発生します。

 労働基準法第32条の文言は「労働させてはならない。」なので、これに言い方を合わせると、どういう場合に「労働させた」と認定されるかという問題です。

 

 一見、簡単な問題のようですが、「朝礼は労働時間になるの?」「忙しいから定時よりも早くきて仕事をしたけど、これって労働時間になるの?」など、問われると即答が難しい問題が多々あります。

 

 まず、(労働基準法上の)「労働時間」とは、という定義のところからはっきりさせましょう。

 労働時間とは、使用者(≒会社)が実際に労働者を労働させる実労働時間を言います。

 重要なのは、これに該当するかの判断基準を示した判例で、判例は「労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まる」としています。

 ポイントは「評価」という点です。最終的には裁判所が決めるということです。なので、会社は不測の残業代を支払いたくなければ、裁判所に残業であったと「評価」されないようにしなければなりません。

 

 実際の判断では、まずある行為が業務に必要かどうかが吟味され、次に当該行為を所定労働時間外に行うことを会社が命じていたか(又は会社が黙認していたか)という順序で行われます。そもそも、所定時間外に業務に必要とはいえないような行為を行っていても労働時間とは認められません。会社が明示的に命じた行為をしていれば、それは当然、労働時間と評価されます。

 実務上、問題となるのは、ほとんどの場合、「会社が黙認していたか」どうかです。

 

 原則としては、会社には所定労働時間を超えた労働を受領する義務がありません。つまり、契約で所定労働時間は9時~18時、12時~13時は休憩、と定めている場合、労働者が勝手に7時に来て働き、また19時まで働いたとしても、そもそも7時~9時、18時~19時の労働を受領する義務はないので、会社はこれに対応する残業代を支払う必要がないのです。言い換えれば、「残業する権利」はないのです。

 しかし、従業員が7時に来て仕事をしているのを会社が把握しておきながら、特に止めていなかったとすればどうでしょうか。その場合、会社はその労働を「黙認」していたと認定され、その労働は会社の「指揮命令下」にあったと評価されます。

 

 よく、インターネットの記事を見ていると、「朝礼は労働時間になる。」とか「片付けは労働時間にならない。」などの記載がありますが、○○=労働時間というように一律に判断されるわけではなく、上記のような視点から個別具体的に判断されます。

 たとえば、朝礼の中身が何ら業務と関連しないことであれば労働時間とは認められないでしょう。朝礼の内容が始業後の役割分担・業務フロー確認等の業務に関連するものであり、かつ会社が当該朝礼の内容を把握していて所定時間外に行うことを止めなかったのであれば、労働時間と評価されるでしょう(逆に、労働者が自主的に朝礼を行っており、管理者(ひいては会社)がそのことを知らなかったという場合には、労働時間性は否定されるでしょう。)。

 

 会社側が不測の残業代を支払うことを回避しようとするならば、簡単に採用できる方法が「残業の許可制」です。たとえば、「8時45分より出社して働く場合、又は18時30分を超えて働く場合には、当日の17時30分までに上長に所定の様式で申請を行うこと。申請のない残業に対しては残業代を支払わない。」というように就業規則で定めるか、あるいは業務命令として通達するのです。

 このような制度を導入した場合、申請のない残業を放置したなど「黙認」と取れるような事実がない限り、無許可の残業は「指揮命令下に置かれていた」とはいえず、労働時間には該当しません。

 

 ところで、「認定」という話が出ると避けて通れないのが「立証責任」の話です。残業代請求を訴訟において行う場合、労働時間の立証責任はどちらにあるのでしょうか。

 

 答えは、労働者です。

 タイムカードがある場合には、特段の事情がない限り、タイムカードをもって労働時間を認定するというのが裁判例の趨勢なので、タイムカードが証拠として提出されることが多いです。また、タイムカードどおり労働時間が認定されることが多いです。

 では、タイムカードがない場合、労働者側が「立証不十分」ということで敗訴になるのかというとそういうわけではなく、労働時間の管理は会社の義務とされ、会社が労働時間を管理していないことの不利益を労働者に負わせるべきではないということで、労働者の言い分どおり・・・とまでは言いませんが労働者の言い分から緩やかな推認で労働時間が認定されています。

 逆に、タイムカードなどの客観的証拠がある場合、タイムカード記載の時間以外にも労働時間があったという主張は、厳しく審理されます。すなわち、労働者が当該タイムカード記載の時間外の労働につき、①その内容と業務性、及び②会社が黙認していたこと、を主張立証しなければなりません。

 

 結論として、タイムカード(又は、これに類するシステム)+残業許可制が、会社としては最も残業代管理が行いやすい形態かと思います。

 

 

 いかがだったでしょうか。

 

 労働基準法の基になったのは工場法という法律で、工場労働者が前提となっています。個人的には、一部の産業(特にホワイトカラー系)においては、労働時間=賃金の考え方は時代に合わなくなってきていると思います。

 よく言われることですが、所定労働時間中はダラダラ働き、残業する方が賃金は高くなります。逆に、所定時間中に集中して働き、定時に帰る人の賃金は低くなります。時間当たりの生産性を考えると後者の方が優遇されるべきなのに、前者の方が優遇されるというおかしな評価になります。

 

 裁量の余地のない(また裁量の余地が少ない)仕事に従事する労働者については、自分で時間当たりの生産性をコントロールできませんので、労働時間=賃金でよいかと思いますが、それができる労働者については再考が必要なのではないでしょうか。

 折衷的な案としては、残業単価の計算を、基礎賃金×1.25のところ、基礎賃金×0.625にするなども考えられるところです。

 

 実際には、「ダラダラ働いて残業している人」と「たくさん仕事を抱えて残業せざるを得なくなっている人」の区別が難しいなどの実務上の問題がありますが、残業の許可制を活用することである程度対処できるのではないかと思っています。

 いずれにしても、「仕事の見える化」が適正な残業管理に不可欠といえるでしょう。

 

 

  • 下関の弁護士による無料相談会

    11月27日(土)10:00~17:00

  • 下関の弁護士による無料メールマガジン
  • 下関の弁護士 弁護士法人ラグーン採用情報
無料法律相談会

11月27日(土)10:00~17:00

  • 無料メールマガジン
  • 採用情報