第78回メルマガ記事「従業員が犯罪の加害者・被害者になった場合の対応」

弁護士の内田です。

 

 突然ですが、子どものために購入した「LEGO」に自分がハマりつつあります。大人の一部にもコアなファンがいるようで、その方々の気持ちがちょっと分かってきました。

 汎用的なブロックがたくさん入ったものが売ってあるのですが、それとディズニーなどとコラボしたブロックを合わせると色々な世界間を作り出すことができます。

 

 プラモデルにハマる人たちはLEGOにもハマるのではないかと思います。残念ながら、肝心の我が子はあまりやってくれていませんが・・・。

 

 そんなLEGOですが、1つだけ難点があります。それは、「高い」ことです。明らかに子ども向けの価格ではありません。1万円とかします。

 ですが、その価値は大人にも子どもにもあると思いますので、LEGOの回し者ではありませんが、皆さんも興味があれば是非LEGOを手に取られてみてください。

 

 

 さて、LEGOの話から急に重たい話になりますが、本日のテーマは「従業員が犯罪の加害者・被害者になった場合の対応」です。

 

 従業員がプライベートでスピード違反を犯したという程度であれば会社に何か対応する必要性が生じることは少ないでしょうが、業務中に犯罪行為が行われた場合や業務時間外における犯罪であっても一定の重大な犯罪が行われたのであれば、会社の責任を問われる危険性が生じますし、懲戒処分といった内部的な処理も検討しなければなりません。

 同様に、従業員がプライベートで犯罪被害に遭った場合であっても原則として会社に何か対応する法的必要性は発生しませんが、業務上であればやはり安全配慮義務違反などの法的責任問題に発展しえます。

 

 ここでは、まず、おさらいとして民事と刑事の関係についてお話します。

 簡単に言ってしまえば、民事とは民間人と民間人の間の問題であって私的な権利(損害賠償請求権など)の存否を判断する場面といえます。他方、刑事とは民間人(厳密には「市民」という言い方の方がよいでしょう。)と国の間の問題であって国が民間人に対して刑罰権を行使できるか(懲役などの罰を科すことができるか)を判断する場面といえます。

 

 この民事と刑事は別物で、理論的には、民事訴訟の判決で違法だと認められても刑事訴訟で有罪になると決まっているわけではありませんし、逆もまた然りです。しかし、実際には、刑事で有罪になれば民事上も不法行為など違法であるとの認定がなされ損害賠償が命じられるケースがほとんどです。

 そのため、通常、被害者側の弁護士は刑事判決の確定を待ってから加害者に対して訴訟提起等を行います。

 

 実務的に簡単な順で解説しますと、まず①従業員が業務中に顧客から預かった金銭を横領するなどした場合、会社は原則として使用者責任(民法第715条)といって当該顧客に対して当該従業員と連帯して損害賠償責任を負うことになります。また、逆に②従業員が業務中に粗暴な顧客から暴行や強制わいせつ行為などを受けた場合、会社がそのような事態の発生を予見でき回避すべき措置を採るべきであるのにこれを怠ったというような場合には安全配慮義務違反(民法第415条)があったとして、当該従業員に対して損害賠償義務を負うことになります。

 このように業務中に犯罪が発生した場合には会社は法的責任を負い得るので、①顧客からの預り金につきダブルチェックを働く仕組みを構築する、②粗暴な顧客に対して顧問弁護士を通じて強めの警告を行う・当該従業員を担当から変えるなどの措置を講じることによって、業務中の犯罪発生予防に力を尽くす必要があります。

 

 ここまでは法務担当者としても分かりやすいところなのですが、最も法的判断が難しいのが業務「外」の犯罪に従業員が関わった場合の対応です。

 まず、押さえておいていただきたいことは、原則として、会社には業務外にことに関して従業員をどうこうする権限はない、ということです。会社の指揮命令権が及ぶのは業務に関してだけであってプライベートなことまでは及びません。

 たとえば、自社の従業員が休日に住居侵入窃盗の犯罪を行ったという場合に、会社としては「こんな奴を雇っておきたくない!」として即解雇したくなるようなこともあるでしょうが、それをしてしまうと解雇権濫用に該当するとして後で解雇が無効になるリスクがあります。

 

 従業員が業務外で行った犯罪等を理由にする懲戒処分に関しては判例があり、企業秩序に直接関連し、会社の社会的評価の低下毀損につながるおそれがあると客観的に認められる場合に限り、懲戒処分が認められるとされています(前科前歴や行為の重大性等により懲戒解雇まで認められるかどうかはケースバイケースです。)。

 抽象的には、①犯罪行為の重大性、②会社の事業の内容・規模、③当該社員の会社内での地位、④報道の有無などを考慮して上記の判例の要件を満たすかどうかを検討するとされているのですが、これだけだと分かりづらいと思いますのでいくつか例をご紹介します。

 分かりやすい例として挙げられるのが、JR職員の痴漢行為、タクシードライバーの飲酒運転です。これらは業務外の行為とはいえ職務に関連していますし、公になれば会社の社会的評価が低下するのは明らかです。

 

 では、次のような事案では、会社は従業員を懲戒処分に付すことができるでしょうか。

 

<事案の概要>

 電子部品製造販売等を目的とする会社Xの従業員Yが児童ポルノ動画をファイル共有ソフトで不特定多数が閲覧できるようにして罰金50万円の刑を科されたが、会社の名前が報道されることはなかった。

 インターネットでYの名を検索しても、特許の発明者としてYが紹介され、一緒にXの社名も出ている記事が1件ヒットするのみであった。

 X及びXの関連会社の従業員数は約3万5000人であり、Xの売上の85%は海外に対するもので、海外の取引先からは児童労働が行われていないことの誓約を求められていた。また、「企業倫理規範・行動指針」を定め、当該指針では「高い倫理観を保持し、社会における責任を自覚し行動します。」などと記載されていた。HPにおいても人権尊重といった記載をしていた。

 なお、欧米などでは児童ポルノについてインターネットによる被害拡大に鑑み、単純所持も禁止するなど厳しい規制がなされている。

 

 このような一見業務とは何ら関係しない犯罪における懲戒処分の可否は、非常に判断が難しいものです。実際、この事件の判断は第一審と第二審で異なっています。

 第一審は、①Yの行為はXの事業と直接関連しないこと、②犯行態様も強制わいせつなど直接的な侵害性のある行為ではないこと、③インターネット検索の結果から見てもXとYの関係が明らかになってXの名誉・信用が低下するとは考え難いこと、などを理由に懲戒解雇を無効としました。

 一方、第二審は、①インターネットを通じて児童ポルノの被害が拡大・深刻化しており、Yの行為は破廉恥かつ悪質なものと言わざるを得ず、その雇用者であるXの社会的評価が低下するおそれがあることも明らかであること、②インターネット検索の結果、XとYがともに掲載された記事も出てくること、③Xは海外企業から企業の社会的責任(CSR)を強く求められ、自社のHPにも人権尊重等を掲げておりYの行為によってXの社会的評価に悪影響を及ぼすおそれは大きいといえること、などを理由に懲戒解雇を有効としました。

 

 以上のように、一見、業務に関連しない業務外の非行でも、よくよく突き詰めれば業務に関連するといえるケースも一定数ありますので、判断に迷う場合には弁護士に相談された方がよいでしょう。

 

 最後に、手続面での注意です。

 刑事の世界では無罪推定の原則により有罪判決がなされるまで無罪と推定されますから、本人が否認して無罪を争っている場合には有罪判決が確定するまで懲戒処分をするべきではありません(通常、起訴休職処分とします。)。

 会社は従業員が逮捕されたという情報を入手したら、人事担当者等(接見禁止など接見ができない場合には弁護士を通じて)が留置施設に赴き、従業員から直接認否(実際に犯罪を行ったのか、それとも行っていないのか)を確認して、最終的に上記のような諸事情を勘案して懲戒処分に踏み切るのかどうかを決定します。

 ですが、ここで重要なのは、安易に懲戒解雇を選択しないことです。仮に上記の判例の要件を満たす場合であっても、行為の重大性に照らして懲戒解雇は重すぎるとして無効になる場合があるからです。

 基本的には、本人が認めているのであれば自ら退職してはどうかと勧め、自分の意思で退職してもらいます。これによって、解雇無効のリスクを回避することができます(実際、報道等で実名が明らかになった従業員は、元の職場に戻る気を喪失していることがほとんどです。)。

 

 

 いかがだったでしょうか。

 

 なぜ、今回このテーマを選択したのかと言いますと、新型コロナウイルス禍になって、従業員が犯罪の加害者・被害者になったという相談が多くなったように感じているからです。

 社会が閉塞的になってフラストレーションが溜まり、全体的に人が犯罪に至りやすい環境が生まれつつあるのではないかと感じています。

 

 犯罪というものは、気を付けていても無縁ではいられないものです。

 

 本メルマガが犯罪対策再検討の契機になればと思います。

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