第79回メルマガ記事「値上げの法律実務」

弁護士の内田です。 

 

 ともかく暑い今日この頃です。私は我慢せず半袖シャツで仕事をしているのですが、先日、当法人のアソシエイト弁護士(ジャケット着用)と調停に行った際、調停員から「依頼者本人」と間違われました。少し悲しかったです(私の知り合いの女性弁護士は調停員から「依頼者の愛人」と間違われたことがあると言っていたので、それに比べればマシですが・・・)。

 いつかのメルマガで「人は見た目で判断する」「服装は大切」と述べましたが、本当にそのとおりだなと思った瞬間です。

 

 個人的には、スーツメーカーに、夏の暑さに耐えつつ、よりフォーマルな服装と認められるものを考えて欲しいと思います。

 

 

 さて、本日のテーマは「値上げ交渉の法律実務」です。

 最近、ニュースを見れば「値上げ」「値上げ」ですが、今日はこれを法律的な観点から解説します。

 

 まず、原則から確認しますと、いくらで何を売るのかは売主の自由です。たとえば、今まで材料Aを1万円で売っていたXが、買主Yに対して、「明日以降は、材料Aは1万5000円じゃないと売らない。」と言っても法的には問題ないわけです。

 

 例外の第一は、当事者が予め価格を拘束する合意をしている場合です。BtoB取引でたまに見ますが、基本契約書などに「買主は売主に対し、本契約期間中、第〇条の本商品の単価を変更することができない。」というように一定期間代金の変更を認めない条項が入っている場合です(こういった条項がある場合、通常、発注があったら一定の範囲内で受注・供給しなければならないという受注義務に関する条項も入っています。)。

 この場合、上記の例でいえば、売主Xは買主Yに対して、契約違反になるため上述のような「値上げに応じなければ売らない。」という主張をすることはできません(勿論、「お願い」は自由です。)。

 

 ただ、少なくとも私の知る限りでは、あまり上述したような条項が入ることは少なく、「原料の調達コストの著しい高騰などやむを得ない事由があった場合には、甲乙の協議により、第〇条の価格を変更することができる。」といった「そのとき話し合って決めましょう。」条項が設けているケースの方が圧倒的に多いです。

 しかし、今のこの世界情勢に鑑みると、今後は、特に大企業を中心として、上述した価格を拘束する条項の入った契約書が増えてくるかもしれませんね。

 

 例外の第二は、独占禁止法(特に優越的地位の濫用)になる場合です(下請法・建設業法についても同様に考えることができます。)。

 優越的地位の濫用というと買主から売主に対する値下げ要請というイメージが強く、値上げは優越的地位の濫用の問題にならないと思われているかもしれませんが、独占禁止法には「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して」としか記載されていませんので、売主が値上げをする場合も優越的地位の濫用規制の対象となります。

 公正取引委員会のガイドライン(優越的地位の濫用に関する独占禁止法の考え方)では、売主の原材料コストが増加したにもかかわらず買主が従前と同一の条件でしか取引しないことが優越的地位の濫用に該当する可能性がある類型として紹介されています。

 値上げ要請を拒否することが優越的地位の濫用に該当する場合、満額回答でないにしろ、買主は一定の範囲内で値上げに応じざるを得なくなります。

 

 注意点として、「原料価格(又は仕入価格)の高騰を理由に値上げ要請されたら応じなければ即独占禁止違法になる。」というわけではありません。まず、優越的地位の濫用規制である以上、売主の地位が買主に優越していなければそもそも法の適用がありません。売主の地位が買主に優越しているかどうかは、買主にとって売主以外の仕入ルートがあるか(また、あったとしてもそれを確保することが著しく困難化かどうか)、売主から供給される材料等が買主にとって必要不可欠(又は代替困難)なものであるかどうか、当該材料等に依存する商品の売上が買主の全売上に占める割合、などから買主が拒否できないような関係性があったと認められるかによります。

 また、仮に優越性が認められたとしても、値上げの拒否が著しい不利益を課すものでなければなりません。わずかな不利益があるという程度では違法にならないということです。

 したがって、値上げを求められた買主としては、門前払いをするのではなく、かといって無条件で応じるのではなく、可能な範囲で具体的に売主から値上げの事情をヒアリングすべきでしょう。

 

 なお、法律の難しいところですが、独占禁止法に違反する値上げがなされた場合にしても値上げ拒否がなされた場合にしても、それだけで直ちにその値上げが無効になるわけではありませんし、要求された値上げ後の金額で契約が成立するわけではありません。

 私法上の効力は別の話で、公序良俗に反すると認められる限りで私法上も無効になると解されています。公序良俗に反するかどうかは究極的には裁判所の判断がなければ確定しませんから、値上げを求めるにしても値上げを拒否するにしても、争いになった場合には、まずは公正取引委員会に相談した方がよいでしょう。その方が司法手続を採るよりも早い解決に繋がる可能性が高いです(公正取引委員会から取引先に指導の連絡が入り、取引先が交渉のテーブルに座ってくれるようになった、など。)。

 

 

 いかがだったでしょうか。

 

 事の性質上、例外の解説の方が厚くなりますが、あくまで原則は「値上げは自由」です。契約で値上げが制限されていたり、値上げ(又は値上げ拒否)が独占禁止法に反する場合というのは極めて例外的です。

 したがって、過度に値上げ又は値上げ拒否を差し控える必要はありません。

 

 明らかに過大と思う値上げ要求を受けた、応じてくれないと大赤字になるような値上げ要求を拒否されたといった事態に、この記事を思い出していただけると幸いです。

 

以上

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