第71回メルマガ記事「親の責任」2021.12.23

弁護士の内田です。

 

 今年最後のメルマガになります。

 

 例年、年末になると、「仕事を溜めたまま年を越したくない!」という気持ちが強くなり、長時間労働で書面を書き上げるなどするのですが、今年は、大体の「宿題」が終わり、割と余裕のある年末になりそうです(いわゆる「イソ弁」が増えたことが大きな要因でしょう。)。

 

 自分に余裕が生まれると、代わりに他の職員のためになることをしようという気持ちが生まれます。とりあえずは、相談時・受任時・和解時といった要点ごとのポイントを整理した書面を作成してみようなどと考えています。

 

 弁護士は、経営者になっても訴訟等の「現場仕事」に割く時間が多い傾向にあり、経営の部分がおざなりになりがちです。

 今まではそれでも「仕事を頑張っていれば何とかなる。」という状況だったのかもしれませんが、弁護士の置かれている競争環境も年々厳しさを増しているところなので、これからもこのようなやり方が通用するとは限りません。

 

 近年では、「スクールローヤー」といった従前弁護士があまり関わってこなかった領域の拡大も見られるところで(SDGsに関わる法務に注力している弁護士もいるようです。)、私も時代に取り残されないように、常にアンテナを貼っていきたいと思います。

 

 

 さて、本日のテーマは、法律的な観点からみた「親の責任」です。

 

 親の責任というと個人間の話のようにも聞こえますが、小売業や遊具施設等の運営業では、「子どもがお客さん」になるケースも少なくないでしょう。

 今回は、子供(未成年)が不適切なことをした結果、会社に損害が生じたというケースを前提に、法的な意味での「親の責任」について解説していきます。

 ケースは具体的な方が分かりやすいかと思いますので、以下のとおり設定します。

 

<事案>

 X社はゲームセンターを運営する会社である。

 ある日、X社のゲームセンターにおいて、未成年Yがゲーム機を蹴って破損させた。当該ゲーム機を修理するのに100万円を要する。

 X社はYの親に対して損害賠償として100万円を請求したい。

 

 結論から言いますと、法律的には当然に「子の責任は親の責任」となるわけではなく、子の行為について親が責任を負うかどうかはケースバイケースです。上の例でいえば、X社はYの親に対し、当然に、「あなたの子供がやったことなのだから責任を取ってください。」とはいえないわけです。

 

 関係する条文は、民法第712条と第714条の2つだけです。

 まず、第712条を引用しておきます。これが子ども自身の責任に関する条文です。

 

(責任能力)

第七百十二条 未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない。

 

 この条文が言っているのは、「自己の行為の責任を弁識するに足りる知能」がない子供は責任を負いません。裏返せば、この知能がある子供は責任を負うということです。

 この知能がいつになったら備わるかについては法令の定めはなく、判例・裁判例上、1213歳くらいで認定されているケースがありますが、結局のところ、ケースバイケースです。原則として中学校2年生くらいになればこの知能があると考えておいても差し支えないでしょう。

 

 さて、そうすると上のケースでは、Yが何歳であったかが重要な事実となります。15歳とかであれば、X社はY自身に損害賠償請求が可能です。とはいえ、15歳のY100万円もの大金を持っているとは考え難いです。

 そこで、X社はY親への損害賠償請求を考えることになります。親の責任に関する条文である第714条を引用します。

 

(責任無能力者の監督義務者等の責任)

第七百十四条 前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

 監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。

 

 先ほどの例でいうと、6歳とかおよそ12歳程度に達しない子供は「自己の行為の責任を弁識するに足りる知能」がないということになり、712条で責任を負いません。なので、「責任無能力者」と言われます。

 714条が言いたいのは、責任無能力者(≒小さい子供)の行為については、親(≒714条でいう「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者」)は原則として責任を負いますよということです。「ただし」以下の「義務を怠らなかった」などは親の方で主張立証しなければなりません。

 

 鋭い方は気づかれたかもしれませんが、714条を反対解釈すれば、責任能力がある子供の行為については、原則として親は責任を負わないということです。つまり、上の例でYが15歳であった場合、Yの親は原則として責任を負いません。

 変な話ではありますが、X社としては、Yが小さな子供の方が助かるのです。

 

 勿論、「原則」なので例外もあります。Yに責任能力がある場合(≒13歳以上の大きな子供?)でも、親がYの行為を具体的に予見でき、事前に阻止しえたといえるような場合には、民法第709条という条文を根拠に直接親に責任を問うことができます。

 いじめのケースでは、学校がイジメの事実を親に伝えて加害者児童を指導するよう伝えていたにもかかわらず、当該加害者児童がさらにイジメをしたというような場合には「具体的に予見できた」と認定されるケースもありますが、このような特殊なケースでない限り、ほぼ立証は困難です。

 上のケースでいえば、X社はYがゲーム機を蹴ると親に事前に言っていたとか、数日前にもゲーム機を破壊する事件を起こしていて親がそれは知っていたなどの事実を証明して「具体的に予見できた。」などと主張しなければいけないということになりますが、そのような主張立証ができることはほとんどありません。

 

 そのため、弁護士がこの手の事案で「その子供の年齢は何歳ですか。」「年齢は分かりませんが高校生です。」などと聴くと、「残念な案件だな。」と思います。

 故意に壊したのであれば刑事告訴といった方法も考えられますが、ただの過失にとどまる場合はそれも不可能で、被害者は事実上泣き寝入りになってしまいます。そういう意味では、高校生くらいをターゲットにしているビジネスを展開している企業は、大きなリスクを負っているといえるでしょう。

 

 

 いかがだったでしょうか。

 

 幼稚園児や小学生をお持ちの読者様は「学校でよその子に怪我をさせたら原則として責任を負うのか・・・きつく教育しておかないと!」と思われた方もいるでしょう。それはそのとおりなのですが、学校での出来事の場合、第714条の第2項の方で学校が責任を負う場合が多いです。そして、多くの場合、学校は事故に備えて賠償保険に入っているので、その保険で対応できます。

 万が一、お子様が学校でトラブルを起こして被害児童の親御さんから何らかの請求を受けた場合、学校との協議は必須となります。

 

 最後に、来年も皆さまにとってよい年となることをお祈り申し上げ、今年最後のメルマガとさせていただきます。

 

以上

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