第94回「法務要員に求められる資質」
弁護士の内田です。
もう年末ですね。早すぎます。
今年を振り返ると、個人としては内部統制に関連する資格を取る、組織としては業務システムを刷新するなど特色のある1年であったように思います。
今年中に為すべきことは全て為した、と言いたいところではありますがいくつかタスクが残ったままです。新年まであと数えるほどしかありませんが、なんとかタスクをこなして、気持ちよく新年を迎えたいものです。
さて、本日のテーマは「法務要員に求められる資質」です。
当法人では今さらながら「7つの習慣」(スティーブン・R・コヴィー著)が多少ブームになっておりますので、本日はこれを真似て法務要員に求められる資質を解説していきたいと思います。
1 主体的である
法務というと「問われたリスクに答えて終わり。」という受け身姿勢のイメージがあります。しかし、法務要員は法的リスクに対して受け身ではなく主体的に活動する必要があります。
通常、契約書チェックの際、その契約で予定されているビジネスがどのようなものなのかを営業部などからヒアリングしますが、その際、契約書の文面上のリスク以外の業務フロー上のリスクなどが見つかることがあります。
法務要員は、そうしたリスクを見つけた際には、そのリスクへの対処法を考え、能動的に上長などに提案すべきです。勿論、法務で対応できる限界はありますが、多くのリスクは書式の整備など法務領域で手当てすることが可能です。
2 終わりを思い描くことから始める
これは非常に重要です。法務というと黒か白かがはっきりしていて担当者に裁量の余地はないというように思われているかもしれませんが、実際には黒か白か分からない中でどうしたらよいかを考えなければならないという場面が多くあります。
弁護士であれば「こういう判決を得たい」「○月頃にはこういう訴訟上の和解をしたい」というゴールを決めて、そこから逆算して相手と交渉したり訴訟活動を展開したりします。「とりあえず、訴訟提起してから追々どうするか考えていきましょう。」という態度は基本的に取りません。
このような姿勢は法務要員にも必要とされます。「会社としてどのような結論に落ち着かせるのが一番良いか。」というゴールのイメージを明確に持ってから仕事に着手します。こういった意識があるかないかで仕事の質は大きく変わります。たとえば、被害者にも落ち度があり、かつ加害者の異動は会社にとって損失が大きいという事案において、何もゴールイメージを持たないで被害者との面談に臨めばただ漫然と話を聴いて終わりになりますが、「加害者は懲戒処分に付すが異動はさせない。」というゴールイメージを持って臨むと被害者との面談で聴く内容・話す内容は自ずと異なってくるはずです(勿論、結果的に加害者の異動やむなしとなることもあるでしょう。)。
法律の縛りはありますが、その範囲内で裁量を駆使して会社の利益に貢献する能力が求められるのです。
3 最優先事項を優先する。
会社が対応しなければ法務リスクは多岐にわたります。潤沢な人的資源のある大企業ならまだしも、人員の限られた中小企業でもどうしても対応に優先順位を付けざるを得ない場面があります。
会社にとって危険性の高いリスクを見抜き、最優先は何かを判断し、速やかに最優先リスクに対処できる能力が求められます。
4 Win-Winを考える
会社とクレーマー、ハラスメントの被害者と加害者など、一見対立する関係にあってもよくよく聞けば両者の利益を損なわない解決策を導ける場合というものが少なからずあります。
よくオレンジを取り合う姉妹の話が例に出されますが(よくよく聞いたら姉はオレンジの皮が、妹はオレンジの身が欲しかった、という話)、これと似たような話が法律の世界でも起こるのです。
特に、組織内紛争や取引先との紛争は、徹底的に一方を叩けばよしというわけではなく、社内の雰囲気や業界内での評判などの観点から穏便に解決するのがベストであることが多いです。
法務要員としては、いきなり訴訟等の攻撃手段に出るのではなく、まずは和解などの穏当な解決を試行すべきです。
5 まず理解に徹し、そして理解される
ハラスメント対応やクレーマー対応など感情的になった人から罵詈雑言を浴びせられることもありますが、法務要員はここで感情的になって対応したり、また相手から目を背けたりしてはなりません。
まず、なぜ相手が感情的になっているのかを傾聴して理解することが大事です。相手が「自分の感情を理解してくれた。」と思えば法務要員の言い分にも聴く耳を持ってくれます。逆に、相手の感情を無視したまま法務要員の言い分をいくら言っても理解(納得)してくれることはありません。
自分の言い分を主張するのは簡単です。まずは相手を理解することに全集中しましょう。
6 シナジーを創り出す
法務単体で利益を生み出すことはできません。法務は製造部門や営業部門と連携することによって初めて会社の利益に貢献することができます。
「攻め」を担当する営業部門と「守り」を担当する法務部門は相反することも少なくありませんが、法務は「違法になるかもしれないからダメです。」というだけではなく、営業側のニーズや現状をしっかりと把握し、「それはダメですが代わりにこういう方法なら目的は達成できますよ。」といった提案ができなければなりません。
新規事業に潜在している法務リスクの洗い出しなど法務はあらゆる部門と連携することができます。その意味で、法務要員には他部門と良好なコミュニケーションを図る能力が必要とされているといえるでしょう。
7 刃を研ぐ
法令・判例(裁判例)・通達などの行政ガイドラインは日々新しくなっています。法的にベストだと思っていた対応が気づいたら陳腐化していたということも珍しくありません。
法務要員としては常に最新の法令等をチェックする体制を作り、知識のアップデートを行っていかなければなりません。
いかがだったでしょうか。
良い習慣を持つことの効果は非常に大きいです。
現状から1歩も前進しない人と毎日100歩だけでも前進する人では、年間で36500歩もの差がつきます。前者があるときから頑張って後者に追いつこうとしても、後者ははるか先に行っていて並大抵の努力では追いつけなくなっているということが往々にしてあります。
人間は水と同じで低きに流れるとは言いますが、歩みは止めないように生きたいものです。
皆さんにとって、来年が良い年になることをお祈り申し上げます。
以上