第44回メルマガ記事「民事と刑事」2019.9.26
弁護士の内田です。
最近、色々あって家事の量を増やしました。
「大変ですね・・・」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、やってみると意外とそうでもありません。
家事の量が少ない・・・というわけではなく、ただ無心に家事を行うことがストレス解消につながることに気づいたのです。
人間は、〇〇をしながら〇〇をする、という並行作業をすると脳に負荷がかかります。たとえば、「歩きながら物事を考える。」という行為が挙げられます。
ストレス解消法としてヨガが勧められたりするのですが、ヨガがストレス解消につながる理由の1つが、意識を呼吸に「のみ」集中することにあります。これにより、脳が並行作業を止めて休まるというわけです。
家事も同じ気持ちで、掃除機をかけながらあれやこれと物事を考えるのではなく、ただ無心で部屋を掃除することだけを考えてやると、終わったときに晴れやかな気持ちになれます。
ジョギングなどでも同じように脳に変更作業を止めさせることができるのですが、家事だと家族にも喜んでもらえるので一石二鳥です。
一度、騙されたと思って、普段、家事労働をされていない方は、積極的に家事労働をされてみてはいかがでしょうか。
さて、本論ですが、今回は、民事と刑事の話をします。
〇〇に殴られた、〇〇に物を盗まれた、そういった相談を受けた場合、弁護士は民事と刑事を分けて考えます。
簡単に言ってしまえば、民事とは、私人間での権利義務の得喪に関することであり、刑事とは、国と私人間での権利義務の得喪に関することです。
刑事についてはちょっと分かりづらいですが、たとえば、刑法には「〇〇した者は、××年以下の懲役に処する」などと書いてあるのですが、これは、〇〇という要件を充たしたら、国にその者に対して××年以下の懲役という刑罰を科する権利が発生しますという意味です。そういう意味で、国と私人との権利関係を定めているわけです。
では、X社の従業員AがX社の現金300万円を着服したという事案について考えてみましょう。
まず、刑事という観点から見たとき、Aには業務上横領罪(刑法第253条)が成立することになります。これによって、国はAに対して刑罰権(刑罰を科す権利)を取得することになります。
次に、民事という観点から見ると、AにはX社に対する不法行為(民法第709条)が成立することになります。これによって、X社はAに対して300万円の損害賠償請求権を取得することになります。
ここでなぜ分けて考えるかというと、刑事と民事はあくまで別のものだからです。上の例では、X社がAに民事訴訟を提起して裁判所がX社の請求を認める判決(AはX社に対して金300万円を支払え、という判決)が出たとしても、だからといって当然にAが業務上横領で有罪になるわけではないのです。
一般的には、民事は結局のところほとんどお金の問題であるのに対し、刑事は人を刑務所に入れるか入れないかという極めて重大な問題であるため、民事よりも刑事の方が求められる立証のハードルが高いと言われています。そのため、民事でも横領の事実が認められても、刑事では認められないということがあり得ます。
逆(刑事で横領の事実が認められて有罪となったのに、民事では横領の事実が認められなかったということ)はあるのかと言いますと、私の知る限りではほぼないです。
前述のとおり、刑事の方が立証のハードルが高いためです。
そのため、上記のような横領事件では、X社の手持ち証拠で民事裁判において横領の事実をほぼ間違いなく立証できるということであればすぐに民事訴訟を提起してもよいのですが、立証が出来るかどうかあやしい場合、まず刑事事件の結果を待ちます。
そして、有罪判決が確定するのを待ち、その刑事確定記録を取得して、民事訴訟を提起します。そうすると、ほぼ間違いなく民事でも請求認容の判決を獲得できます。
このように、民事と刑事は別物ですが、とはいえ実務上全く無関係かというとそういうわけではなく、別物ではあるものの密接に関連しています。
なお、余談ですが、上記のような従業員の横領や窃盗という事件が会社で発生した場合、被害額全額を当該従業員から回収するのは困難なケースが多いです。
会社の資産に手を付けるような従業員というのは多重債務などでお金に窮していることが多く、横領や窃盗したお金はすぐに弁済などに回されて、本人の手元に残っていないことが多いからです。いくら民事で判決を取っても、相手に資力がなければただの紙切れです。
会社としては、犯罪行為の「動機」となるものを排除するために、顧問弁護士などの相談窓口を用意しておくとリスクを低減することができます。
資力の乏しい相手からも債権を回収するテクニックもあるのですが、それはまたいつかお話しようと思います。