第70回メルマガ記事「採用のリスクヘッジとしての有期雇用」2021.11.27

 弁護士の内田です。

 

 あっという間に年末が近くなりました。今年も色々とありましたが、残すところあと1か月です。何となく12月は気が緩みやすいので、注意して過ごしたいと思います。

 

 最近、物価が上がっていますね。ニュースでは、「原油高が原因で」などと根拠不明のまま因果関係が断言されることが多いですが、実際の因果関係はそう簡単に言い表せるほど単純ではないと思います。

 人は「分からない」という不安定な状態を心理的に嫌うので、ある種の権威から「今のこの状況はこういう原因から発生しています。」と断言されると安心します。そういった心理を背景に、因果関係の断言をしているのかな、と邪推してしまいます。

 

 ネット広告には、○○の原因はこれだ⇒だから、これを買ったらよい、という論理での広告が多いですが、前提の部分の根拠が脆弱なものが多いように思います。

 

 少し前に、ファクトフルネスが流行りましたが、法律実務家の世界では元々あった考え方です。「汝は事実を語れ。我は法を語らん。」という格言もあるように(ここでいう「汝」が訴訟当事者、「我」は裁判所です。)、訴訟当事者は第一の責務は法律解釈を語ることではなく(勿論、ある程度は語りますが・・・)、法律適用の前提となる事実を十分に主張することにあります。

 事実認定の考え方など、法律実務家の共有知識は、訴訟外のビジネスの現場でも有益なものが多いです。このメルマガでも、折に触れてこのような共有知識をご紹介していきたいと思います。

 

 

 さて、今日のテーマは、採用のリスクヘッジとしての有期雇用です。

 

 

 会社にとって新規採用を怖いことはありません。万が一、いわゆる問題社員を抱えてしまった場合に会社が被る被害は甚大です。

 たとえば、社会保険料等も含めて月30万円がかかる問題社員がいたとします。この者を20歳で雇い、65歳まで勤務させたとすれば、会社は45年間で16200万円を支払うことになります。

 勿論、生産性が0円ということはあまりないので上記の金額全部が無駄な支出ということになることは少ないでしょう。それでも、生涯で見ると莫大な「無駄」が発生します(無駄どころか、近年にみるバイトテロのように、「損失」をもたらす者もいることを忘れてはなりません。)。

 

 会社としては、問題社員を採用しないのがベストですが、いくらテストや面接等を重ねても、フィルタリングが上手く働かないことはあるものです。

 もし問題社員を採用してしまった場合、ご存知のとおり、解雇は容易ではありません。退職勧奨も絶対に功を奏するわけではありません。

 

 そこで、万が一、問題社員を採用してしまった場合でも、円滑に退職させられる制度がないものかと考えることになるわけですが、そこで出てくるのが「有期」雇用です。

 有期雇用とは、期間の定めのある雇用契約で、たとえば、雇用契約書に「期間の定め ☑有(2022年4月1日~2022年9月30日) □無」とあれば、2022年9月30日をもって雇用契約は終了し、自動的に退職になります。仮に採用したのが問題社員だったとしても、同日まで耐えれば退職してもらえることになります。

 ただ、この方法にはデメリットがあります。それは、「有期だと優秀な人材が集まらない」ということです。

 我が国では、まだまだ優秀な層には「無期(一般的には正社員)」が人気で、有期で募集を出しても優秀な人材は集まりにくいのが実際のところです。

 

 ここで、「試用期間を設ければよいのでは?試用期間でダメだったら退職してもらえばいいじゃないか。」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

 しかし、試用期間については判例があり、通常の解雇ほどは厳しくないものの、通常の解雇に準じて、「解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的合理性・社会的相当性がある場合にのみ認められる」と解されており、会社にとってノーリスクというわけにはいきません。

 

 ここで、試用期間を設けて無期で雇うのにもリスクがある⇒しかし、有期だと優秀な人材が集まらない⇒なら、有期で雇うけど、有期期間中に問題が無ければその後は無期にすると面接のときに言えばいいじゃないか、という発想が出てきます。

 上の例でいえば、202241日から2022930日までの働きぶりを見て、問題なければ無期(≒正社員)に変更して2022101日から働いてもらおうというわけです。

 

 実際、このような仕組みで採用活動をした事案がありました。

 最高裁判所は、「有期期間が実質的にみて労働者の適性を評価・判断するものであるときは、試用期間と解するのが相当」として、有期の部分が実質は試用期間であると認定して、期間満了による退職(上の例だと2022930日での退職)を認めませんでした。

 このように、いくら法形式を整えても、訴訟では実質判断になってきますので、無期転換ありきの有期雇用をしても採用のリスクヘッジにはなりません。

 

 では、有期雇用は活用の余地がないかというと私個人としてはそうは思っていません。有期でも、待遇が良ければ優秀な人材は集まると思います。

 こんなことを言っては元も子もないかもしれませんが、結局のところ、無期か有期かという二分論で人材の善し悪しを割り切れるものではなく、人材育成の仕組みなど会社側の資源によって人件費効率は大きく左右されます。

 

 

 いかがだったでしょうか。

 

 実際、当法人の顧問先企業様から「有期雇用にしておいて助かった。」という声を聞くは少なくありません。

 本メルマガを機に、有期雇用の活用を検討されてはいかがでしょうか。

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