第124回 証人尋問の現実
弁護士の内田です。
弊所でも最近はAIをフル活用しており、業務の内容に応じて4~5種類のAIを使い分けています。AIによって得手不得手というのがあるようですね。
AIを使っていると、「便利だな」と思う反面、恐ろしくも感じます。何が恐ろしいかと言いますと、それは人間から自分で思考する意思や能力を奪う点です。分からなかったらすぐに「AIに聞こう。」となって自分の頭で考えなくなっていきます。これはきっと、人の成長によくないのでしょう。
大人であれば、AIが出した結論を批判的に検討することはできますが(ソースは信頼できるのかとか、反対の立場はどうなっているのか検証するなど)、批判能力の低い子どもが使うとミスリードされる危険性が高いと思います。
とはいえ、AIを駆使して働く人とそうでない人の差は広がっていく一方でしょうから、AIと距離を置くのは難しく、上手くAIと付き合っていかなければなりません。
子供にどうAIと向き合うべきと教えるのか、難しい課題です。
さて、本日のテーマは、「証人尋問の現実」です。
証人尋問といえば訴訟の見せ場というイメージで、よくドラマでも描かれています。証人が証言台の前に座っていて、弁護士や検察官が横から質問して、裁判官は1段高いところから話を聞いている、というアレです。
ドラマでは弁護士が長々と喋ったり、証人が泣き崩れたり真実を長々と語りだしたりするシーンもありますが、実際にはそのようなことはほとんどありません。
まず、1問1答が基本とされていて、長々と質問したり、長々と回答したりすることは良しとされていません。聞かれてもないことを長々と話しだすと、大抵の場合、裁判官から「聞かれたことにのみ端的にお答えください。」と注意されます。
また、証人尋問の前には、予め陳述書といって法廷で証人としてどういうことを話すのかまとめた書面を出しますので、現場でサプライズがあることも少ないです。大体、陳述書どおりに喋ります。
サプライズがあるとすれば反対尋問(その証人を申請した側とは逆側の立場からの質問)ですが、ここでも、証人が「すいません。私が嘘をついていました・・・(膝から崩れ落ちる)。」みたいなことはほぼありません。
Aさんが万引きするのを見たと証言している人に、弁護人が「本当は見てないでしょ!」とか聞いたとしても「見たって言ってるじゃないですか!」と言い合いになるだけです(なので、そもそもこういう直接的な聞き方はしません。)。
なので、弁護士は、遠回しな質問の仕方をします。たとえば、上の例ですと「あなたが目撃したときの立ち位置はどこでしたか?」「なぜあなたは自分の買い物中に被告人を見ていたのですか。」「視力はいくらですか。」「その盗まれたお菓子のパッケージは何色でしたか?」みたいな感じです。
証人が提出されている証拠と整合しないことを言ったならそれで成功という具合で、その場で鬼の首を取ったように高らかと「今、あなた矛盾したことを言いましたね!」とか語り出したりはしません。その場で追及すると「いや、こういう意味で言ったんです。」「質問の意味を勘違いしていました。」とか弁解されてしまうからです。後で、裁判所に提出する書面の中で「あの証人、この証拠と矛盾することを言ってましたよね。信用できないですよね。」とこそっと書くのが正解だったりします(裁判官が証拠との矛盾に気付いてなさそうだったら、ちょっとアピールしたりすることはあります。)。
反対尋問の成功は、このように証拠関係がしっかり頭に入っている人には分かるのですが、一般の傍聴人が聞いていても分かりません。「さっきのやりとり、何の意味があったんだ?」ってなります。
証人尋問前の準備は非常に大変ですし、当日も長丁場になり疲れます。正にここで勝負が決まる!といった勢いで緊張されている依頼者さんもいらっしゃいますが、私はいつも「そんなことはないよ。」と伝えています。
そう、本当にそんなことはなくて、裁判官は大体証人尋問を聞く前から大体の結論を決めています。原告を勝たせようと思っていた裁判官が証人尋問後にはやっぱり被告を勝たせることにした、ということは極めて稀です。
こういうと「裁判官は人の話をちゃんと聞かないのか」と思われそうですが、そうではなく、証人尋問の前までには双方の主張と証拠が全部出ちゃっているわけです。しかも、前述のとおり、陳述書という形で証人が法廷で話す内容もあらかた紙で事前に提出されています。ここまで材料が揃っていれば、心証はほぼ決まるのです。
証人尋問でその心証を覆すに足りるサプライズがあれば変わることもあるのでしょうが、そういったサプライズはあまりないのが実際のところです(全くないわけではないですが。)。
最後に裁判官も証人に質問するのですが、弁護士から見ると「自分の出す結論(判決)が正しいことの裏取り」をしているように映ることがあります。裁判官の質問を聞いていると、大体どちらの結論で判決を書こうとしているのかも分かります。
いかがだったでしょうか。
実際の証人尋問にはドラマのような派手さはなく、水面下で分かる人だけが分かる世界で白熱しています。将棋みたいですね。「今の一手、この人、できる!」みたいな。詳しくない人が見ていても何をそんなに考え込んでいるのか分からない、そんな世界です。
余談ですが、裁判もweb化が進んでおりまして、裁判所に出頭することはほぼ無くなっているのですが、この証人尋問のときだけは出頭しなければなりません。昔は、忙しいのに遠方まで行くのが億劫だったりしたものですが、今は逆に事務所を出ることが減りすぎて出張となると若干嬉しい気持ちがあったりします。
以上






