第49回メルマガ記事「就業規則の不利益変更」2020.2.27

 
 弁護士の内田です。

 

 今日は、初めに少しだけ法律事務所のことについてお話し、本題として「就業規則の不利益変更」についてお話させていただきます。

 

 よく相談者様から「法律事務所も年末や決算期には忙しかったりするんですか。」と尋ねられることがあります。

 

 この質問に対しては、「特に繁閑の時期が決まっているわけではありません。」とお答えしています。

 

 法律事務所は、紛争が多ければ忙しいですし、平和であればあまり忙しくありません。労務問題、相続、離婚、交通事故、多重債務といった一般的に法律事務所に持ち込まれる案件は、「この時期に多い」というのは決まっていませんので、年間での繁閑時期というのは特にないのです。

 

 それでも、例年、2月はわりと事件数が少ない傾向にあったのですが、今年はかなり事件数が多く、弁護士・事務局ともに悲鳴をあげている状態です。

 

 忙しいことは悪いことではありませんが、常に事件を抱えている弁護士としては、たまには事件を忘れてのんびりと長期休暇を取りたいものです。

 ただ、今はインターネットが発達しているので、長期休暇を取っていても事務所から連絡が来るのですが・・・(新婚旅行でハワイにいるときでさえ時差を考えて国際電話で事件対応をしていました・・・。)。

 

 さて、それでは本題に入りますが、最近、働き方改革法制の中小企業への適用開始に合わせて、法改正に対応する部分以外についても就業規則全体を見直したいというご依頼が少なくありません。

 

 法律の改正に伴って、新しい法律の内容どおりに就業規則を変更するのには大きな問題はありません。たとえば、有給を年5日消化させなければならなくなりましたが、それをそのまま就業規則に書く分には特に気を付けることはありません。

 

 問題となるのは、就業規則の不利益変更です。労働契約法の以下の条文をご覧ください。

 

 

第八条 労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。

(就業規則による労働契約の内容の変更)

第九条 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。

第十条 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。

 

 労働条件は「合意」によって変更するのが原則で(8条)、就業規則を変更することでの不利益変更は原則としてできず(9条)、変更の合理性が認められる場合に限り、不利益変更が有効とされるのです。

 

 不利益変更の中でも、特に賃金の減額(賃金規程の改訂による場合がほとんど)については、判例において厳格に合理性を判断するとされており、よほどの理由がなければ不利益変更が有効とは認められません。「固定給を減らして歩合給を導入し売上増加を図りたい!」というレベルの理由では、まず、有効とは認められません。

 

 そうすると、企業が就業規則の不利益変更をする際にまず考えるべきは、「合意」により変更することができるか、ということになります。実際の手続としては、変更後の就業規則案を労働者に示し、労働条件がそのとおりに変更されることに同意する旨記載された書面に署名押印していただくことになります。

 

 しかし、これは必ずしも上手くいくわけではありません。変更に同意する労働者もいれば同意しない労働者もいます。

 

 では、同意しない労働者がいるから変更をあきらめるべきなのでしょうか。「変更が無効になる可能性が高いから止めましょう。」ということになるのかということです。

 

 勿論、そうではありません。

 

 投資判断などの経営判断と同様に、予想利益とリスクを比較考量して判断を行うことになります。不利益変更について言えば、①訴訟になる可能性、②訴訟になった場合に敗訴する可能性、③敗訴ないしは敗訴気味の和解になった場合の金銭的ダメージ等と、不利益変更をすることにより得られるであろう会社の利益(中長期的には労働者の利益ともいえるでしょう)を比較考量して同意のない不利益変更に踏み切るのかを検討します。

 

 また、単純に賃金を下げるとか休日を減らすなどの形で不利益変更を行えば、当然、反発が予想されますが、経過措置を設ける、補完的に労働者にとって利益になる措置も設ける、などの工夫を行えば、比較的反発を受けることなく同意を得られることもあります。

 

 就業規則の不利益変更につきどのような場合に合理性が肯定されているのかなどについては判例・裁判例の蓄積がありますので、弁護士にご相談ください。

 

 

 以上、今回は就業規則の不利益変更のお話でした。

 

 

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