第65回メルマガ記事「新・民事執行法について」2021.6.24
弁護士の内田です。
今年に入り、しばらくご無沙汰となっていた登山をまた始めました。
かれこれ4年くらいやっていなかったので、それほど高いわけでもない山でもかなり堪えました。
登り切ったときの達成感・絶景、下山後の温泉・美味い食事・・・やはり登山は最高でした。何か辛いこと(目標とすること)を乗り越えるからこそ、温泉・食事といった「ご褒美」を幸せに感じるのだと思います。
「人生は山登りだ!」とまでは言いませんが、似ているところはありますよね。
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さて、今回は「新・民事執行法」についてお話します。
今まで、いくら勝訴判決を得ても、相手の財産を把握できないために差押え等ができないという事態が多く発生していました。それが、2020年4月1日の民事執行法改正により改善され、相手の財産を把握しやすくなりました。
今回は、この新・民事執行法について主要な改正点を簡単に解説します。
1 財産開示手続の強化
確定判決に基づいて、財産の開示するよう求める手続(財産開示手続)がありましたが、従前は、債務者が財産の開示を拒否したり、虚偽の陳述をした場合であっても、30万円以下の過料という軽いサンクションしか用意されていませんでした。そのため、ほとんど活用されていませんでした。
今回の改正により、まず、確定判決だけではなく、執行可能な公正証書に基づいても財産開示を求めることができるようになりました。
また、一番の問題であったサンクションも、6カ月以下の懲役又は50万円以下の罰金に強化されました。
2 不動産に関する情報取得手続の新設
登記所から債務者が所有名義人となっている不動産に関する情報を取得する手続が新設されました。これにより、債務者名義の不動産を探索・発見し、差し押さえて競売にかけるといったことが可能になります。
但し、この手続は債務者のプライバシーをかなり制限するものであるため、先に強制執行を実行したが不奏功に終わったことや、上述した財産開示手続を行ったことなどが要件となっています。
3 給与に関する情報取得手続の新設
市町村・日本年金機構等から債務者の勤務先を特定するのに必要な情報を取得する手続が新設されました。これにより、債務者の勤め先を把握し、給与の差押えを行うことが可能になりました。
この手続も債務者のプライバシーをかなり制限するものであるため、不動産に関する情報取得の場合と同様の要件(強制執行の不奏功・財産開示手続の前置)が定められています。
加えて、この手続は、債権が①養育費・婚姻費用等の請求権、又は②生命・身体の侵害による損害賠償請求権である場合に限り、採ることができるとされており、権利の性質によって制限があります。
4 預貯金債権に関する情報取得手続
金融機関から債務者の預貯金債権(≒口座)に関する情報を取得する手続が新設されました。あまり知られていないことかもしれませんが、預貯金の差押えをする際、〇〇銀行だけでは特定が不十分で、「〇〇支店」というところまで特定しなければなりません。そのため、債務者の口座がどこにあるか分からないために差押えができないという事態がよく発生していたのですが、この手続により「〇〇支店」のところまで把握することができるようになったわけです。
この制度は、前にご紹介した2つの制度と異なり、強制執行の不奏功や財産開示手続の前置は求められていません。非常に使いやすい手続です。
但し、実際にやってみると金融機関名までは特定しなければならないので、その判断に迷います。債務者の居住する地域の主要な金融機関とメガバンクくらいを挙げて実行することが多いのではないかと思います。
以上、新・民事執行法により強制執行制度が強化されたことにより「判決がただの紙切れ」になるという事態は少なくなったといえるでしょう。
しかし、いくら強制執行制度が強化されても「ない人から取れない。」ことは変わりありません。そもそも資力がない人にお金を貸したりしない、抵当権など担保権を設定しておく、などの債権回収の基本に変わりませんので、新・民事執行法を過大評価して基本をおろそかにしないようにしましょう。
いかがだったでしょうか。
どうしても債務者の財産が分からないとき、徹底的に強制執行を実行して、債務者の方から「もう、これで勘弁してください。」と隠していた財産を出させるという泥臭い手法を採ることも少なくありませんでした。
これからは、債権回収がもう少しスマートになっていくのかもしれませんね。