第66回メルマガ記事「債務不履行」2021.7.22

 

   弁護士の内田です。

 

 当法人では、昼食を原則として弁当にしています(但し、強制ではありません。)。

 理由はいくつかありますが、①外食に行く労力・移動時間が省略できること、②弁護士の仕事の事柄上、第三者がいるところで込み入った仕事の話が出来ないこと、の2つが大きな理由です。

 

 実際、昼食時間にアソシエイト弁護士がパートナー弁護士に事件処理の相談をすることが多々あり、大事なトレーニングの時間になっています。

 このような法律事務所は多いのではないかと思います。

  

 さて、今回のテーマは「債務不履行」です。日常的に使われる言葉でもありますが、意外と法律的な意味合いは正確に理解されていません。

 そこで、本日は、債務不履行の法律的知識と実務的知識についてお話したいと思います。

 

 債務不履行とは、簡単に言ってしまえば約束を破ることです。大切なことは、どのようにして「約束」があったと認定され、どのようにして「破った」と認定されるかです。

 ここで、最も基本的な民法の条文を引用します。

 

(債務不履行による損害賠償)

 第四百十五条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

 前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。

 債務の履行が不能であるとき。

 債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。

 債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。

 

 ここで、「債務の本旨」という言葉が出てきます。同じような言葉として「契約の内容に適合しないものであるとき(契約不適合と言います。)」という言葉も他の条項の中で出てきます。

 商品や役務を提供しても、それが「債務の本旨」にしたがっていなければ上記条文のとおり損害賠償請求されますし、「契約の内容に適合しない」場合には商品の修補・代替品の供給・代金減額などの請求を受けることになります。

 

 この「債務の本旨」に従っているかどうか、「契約の内容に適合」しているかどうかは、最終的には、裁判所が契約書等の証拠から、「債務者(義務を負う方)は、具体的にどのような商品(役務)を提供するという約束をしたのか」という観点から認定します。

 

 詳細は省略しますが、契約当事者の署名又は押印のある契約書には、強力な証明力が認められています。たとえば、契約書に「甲は乙に対し、A商品1個を、令和3年7月20日までに引き渡す。」と記載してあれば、特段の事情がない限り、甲(債務者)は乙に対して、A商品1個を、令和3年7月20日までに引き渡すという約束をした、と認定されます。

 いくら甲が「契約書上はA商品になっているが、乙との間では、B商品1個でも良いと言われていた。」と主張しても、乙がそれを認めない限り、「B商品でも良いという約束だった。」とは認められません。

 

 そうすると、企業人としては、第一に、①契約書記載の債務の内容が明確かどうかを確認しなければなりません。また、②真実約束した内容どおりにちゃんと契約書に記載されているか、を確認しなければなりません。

 

 この2点を疎かにして紛争になりやすい類型が、建築工事です。

 契約書に「居間内装工事一式」としか書いておらず、注文者から「お願いしていたのと違うから代金は払わない。」と言われて困るのが上記①を怠った典型例です。工事開始後に注文者から玄関仕様変更を言われて了承した際に契約書等を作成せず、後になって「契約書どおりになっていない。」と言われて代金の支払を拒否されるのが上記②を怠った典型例です。

 建築業界以外にも、IT業界もやや上記①②の点検が甘いように思われます。

 

 ところで、契約書の記載だけでは、結局、どういう約束がなされていたのか分からないという場合、裁判所はどのように約束の内容を認定するのでしょうか。

 

 まず、契約書以外の証拠(+争いのない事実)によって約束の内容が認定できるのであれば、それによります。たとえば、上記の例で、契約書作成日の前日に、注文者と請負人との間のメールで「居間の内装については、添付の画像のような形になります。」「いいですね。それでお願いします。」のようなやりとりがなされていれば、特段の事情がない限り、その添付の画像に映っているような内装を施工するという約束がなされていたと認定されるでしょう。

 このような証拠(又は争いのない事実)がない場合、法令・業界標準・慣習などから認定がなされます。たとえば、特段の事情がない限り、建築基準法で義務付けられている性能以下の性能でよいという約束があったとは認定されず、「少なくとも建築基準法で定める性能を有していること」が約束の内容になっていたと認定されます。

 建築基準法のような法令がない領域においても、〇〇協会などの権威ある団体などが示している標準工事仕様などがあればそれが参酌されます。

 

 なので、商品・役務提供側からすると、契約書の記載が曖昧でも中等な商品・役務の提供さえ行っていれば、後で損害賠償を命じられるといった事態を避けられることが多いといえます。逆に、商品・役務受領側は、提供側と中等以上の商品・役務の供給を合意した場合には、きちんとその旨契約書に明記しておかないと、後で損害賠償請求が困難になります。

 

 法律に限らないことですが、曖昧にしておくことで不利益を受けるのはどちらなのか、ということはよく意識しておかなければなりません。

 何を約束したのかという認識も大切ですが、リスクマネジメント観点からは、「後で紛争になった際、裁判所は、どういった約束があったと認定すると考えられるか。」という視点も忘れないようにしましょう。

 

 

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