第74回メルマガ記事「発達障害の労働者に対する配慮について」

弁護士の内田です。 

 

 新型コロナ、ロシアのウクライナ侵攻等、現在、世界は危機的な状況に瀕しているように思います。

 

 ロシアのウクライナ侵攻に対し、ロシア市民を含む世界の多くの人々が「No」を表明してデモ等を行っているのを見ると、戦争に反対している人たちの方が趨勢で、平和が重んじられているのだと感じ、少し安心します。

 戦争を肯定するような言論・報道も出てくるのではないかと思っていましたが、今のところ表立ってはそのようなものはありません。

 

 人類史で見たとき、平和なときはそう長く続いていません。今回の世界危機が、人類にとっての歴史的な転換点になることを願いします。

 

 

 さて、今日のテーマは「発達障害の労働者に対する配慮について」です。

 

 「うちは障害者の雇用を義務付けられるような大きな会社だから関係ないよ。」と思われる方もいるかもしれません。

 しかし、その考え方は間違いです。

 

 たしかに、障害者の雇用を義務付けられるのは一定規模の会社だけですが、障害者に対する配慮義務は規模に関わらず全て会社にあるとされています(障害者雇用促進法第36条の3)。そして、同条を引用して、障害者に対する解雇を無効と判断した裁判例もあります(京都地方裁判所平成28年3月29日判決)。

 

 「障害者と知って雇っているのだから一定の配慮を求められるのは当たり前」と思われる方もいるでしょう。しかし、同法は法文上、雇入れ時に障害者であることを知っていたかで適用を区別しておらず、雇入れ時に障害者であることを知らなくても雇入れ後に知った場合にも適用されます。

 身体障害等、外見上分かりやすい障害であればそれを知らずに雇用するということはあまりありませんが、発達障害は長く接してみないと分からないことも多く、雇用後に判明することが少なくありません。

 

 それでは、実際に労働者Aについて「発達障害なのではないか?」という疑いが発生したというケースを考えてみます。

 

 まず、やってはいけないことは、会社が医師の判断もなく勝手に「発達障害だ。」と決めつけて対応することです。言葉を選ぶ必要がありますが、まずは医師への診察を促すべきです。

 労働者Aがどうしても受診しない場合には、勝手に発達障害と決めつけるわけにもいきませんので、通常の労働者に対するのと同様に懲戒処分等で対応することになります。

 

 ここでは、労働者Aが受診し、アスペルガー症候群であることが判明したとします。では、具体的にどのような措置を講じればよいのでしょうか。

 

 上で紹介した裁判例は、会社は「一定の配慮」の例として、①問題行動があった後の的確な指導の実施、②主治医からの情報提供、③職務変更など解雇回避措置の検討・実施を挙げていますので、これらが参考になるでしょう。

 このうち、特に重要なのは②でしょう。当該労働者の障害の性質・程度などの医学的情報なしに「的確な指導」や合理的な職務変更などはなしえないと考えられるからです。

 障害に関する情報は当然ながらプライバシーに関する情報で医師が本人の同意なく会社に話すことはないので、労働者本人からの同意書の取付けが必要になります。

 

 具体的な指導方法や配置転換等は医師の意見も踏まえた上で決定していくことになりますが、この決定の過程には労働者本人も入ってもらった方がよいです。

 このようにして定まった指導や配置転換等をしてもなお問題行動が改善されないようであれば、最終的には退職勧奨又は懲戒処分・解雇によって対処せざるを得ません。

 

 いかがだったでしょうか。

 

 政府統計によると、およそ7.4%の方が何らかの障害を有しているようです。企業人にとって、障害者と労働の問題は避けては通れない議論なのかもしれませんね。

 

以上

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