第104回 商品売買基本契約書の意義

弁護士の内田です。

 現状を大きく変えてさらに高いステップに上るためには、明確なゴールイメージが必要です。ゴールイメージが明確であるほど行動が生まれます。ゲームメーカーでは、まず商品の広告イメージ画像の作成からスタートし、そのイメージに合うようにゲームを組んでいくのだとか、そういった話も聞きます。
 
 ここまでは何となく同意をいただけるのではないかと思いますが、難しいのは「どうやったらそんな明確なゴールイメージを持てるのか?」です。
 その答えですが、最近、「経験」しかないのではないかなと感じています。いくら本を読んで感銘を受けても、セミナーに参加してその場でテンションを上げても、現状を変えるほどの行動力の源泉にはならない、そう思います。

 このように考えていくと、強い組織にとって必要になるのは経験マネジメントです。多少お金がかかっても、社員には良い経験をさせるべきです。組織が自律的にゴールに向かって行動できる集団に変わるのであれば、安い投資でしょう。
 もし、周りに向上心にあふれて行動力のある方がいれば、その行動を生んでいる原体験を聞いてみるとよいかもしれません。思わぬヒントが得られるかもしれません。


 さて、本日の本題は「商品売買基本契約書の意義」です。冒頭の話は全く関係ないです。

 売買基本契約書はビジネスの場面で比較的よく見る類型の契約ですが、その意義がよく理解されていないまま使われていることがたまにあります。
 まず、なぜ「基本」がネーミングに入っているのかという点から話をします。

 

 商品売買基本契約は、売主買主間で継続的に繰り返し締結される売買契約に適用される定め(条項)をした契約です。売主と買主が売買契約をする際、1月に20回くらいの取引(売買)があるとするとその度にいちいちたくさん条項が書いてある契約書を交わすのは面倒ですよね。そこで、「私たちの間で将来締結する売買には、基本契約書に書いたルールを適用しましょうね。」と約束するのです。
 このように「私たちが将来する取引において原則として適用されるルールを決めておこう。」というものですので、「基本契約」と呼ぶのです。

 

 重要な点として、原則として基本契約自体は両当事者に何らの権利義務も生じさせないということが挙げられます。売買契約はあくまで基本契約締結後に買主が売主に発注し、売主がこれを受注し、売買が成立してから初めて成立し(こうして具体的に締結された個々の契約を「個別契約」と呼ぶのが一般的です。)、その時点から売主買主は個別契約と基本契約書に定められた条項に従って権利を取得し、また義務を負います。

 

 例外として、基本契約締結時点で売主買主が義務を負う場合があります。たとえば、買主に発注義務が課されている場合、売主に受注義務が課されている場合です。

 たとえば、A社がB社のB社商品を改良したX商品を市場の状況も見ながら1万個くらい買いたいと言っている、しかし、X商品を製造するには5000万円の設備投資が必要になる、という場合について考えてみます。この場合、B社としてはせっかく5000万円もかけて設備投資したのにA社が「気が変わったのでやっぱり来月から発注しない。」などと言い出したら困るわけです。
 こういった場合に、売買基本契約において「買主は売主に対して月〇個以上発注しなければならない」「しなかった場合には違約金として〇万円を支払う」というような発注義務条項を入れます。このような条項が入った基本契約を締結すれば、その時点から買主は義務を負うことになります。

 受注義務を負わせたい場合についても、上の例を参考にして考えられてみるとよいでしょう。完成品メーカーと部品メーカーとの契約が分かりやすいですね。

 顧客からの求めに応じて素早く製造・納品しなければならない完成品メーカーにとって、迅速に部品を調達できるかどうかは極めて大切です。いざ発注したら「今月は忙しいので受注できません。」では困るわけです。そこで、部品メーカーの生産能力などをヒアリングしたうえで「月〇個以内においては、売主は買主から発注があった場合には必ず受注しなければならない。」「しなかった場合には損害賠償義務を負う。」といった条項を入れます。これによって、完成品メーカーは強固なサプライチェーンを構築することができます。

 

 契約と同時に直ちに権利義務を生じさせる基本契約は、どちらかと言えばあまり見かけない方ですが、想定しているビジネスの実情に照らして使うべきときは使わないと大きな損失を被ることになります。
 漫然と「雛型」基本契約書を使ってしまわないように注意しましょう。


 いかがだったでしょうか。
 
 このメルマガを機に、是非、自社の売買基本契約書を見直されてみてください。

以上

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