第113回 法律における「期限」

弁護士の内田です。

桜の季節ですね。もう散りつつありますが。皆さんは桜見に行かれましたか。
 
ところで、なぜ、人は桜を見に行くのでしょうか。

勿論、桜が綺麗だからというのもありますが、「桜はすぐに散るから」ではないでしょうか。見ることのできる期限がある、だからわざわざ足を運んで見に行っている、そう言えないでしょうか。

 

 本の名前は忘れましたが、もし人に寿命がなければ、文明は今ほど発展していなかっただろう、と語られていました。若いときもいつかは終わり、老い、やがて死ぬ、命には期限がある、だからこそ生きている間に何かを残そうと人類は色々と頑張ってくることができた、そんな感じです。
 こういった大きな話でなくても、仕事でも「期限」があるから頭がフル回転するということはありますよね。「この仕事は死ぬまでにはやってくれたらいいよ。」と言われたら、脳みそを回転させようという気は起こらないでしょう。明日でいいや、1年後でいいや、10年後でもいいや、ってなります。

 

 人の力を引き出すために期限を設ける。このような観点から、自分にも他者にも期限を設けてみてはいかがでしょうか。


さて、今回のテーマは、「法律における「期限」」です。

法律における「期限」とは、法律行為(契約など)の効力の発生や消滅を、将来必ず起こる出来事にかからせるための取り決めです。重要なポイントは「将来必ず起こる出来事」という点です。これが「条件」との大きな違いです。


例えば、「来年の4月1日に車をあげる」というのは期限ですが、「希望の大学に合格したら車をあげる」というのは条件です(合格は将来において絶対ではないため。)。

この条件と期限は、民法では127条ないし137条で定められています。

期限は、法律効果の発生時期を定める「始期」と法律効果が消滅する時期を定める「終期」に分けることができます。建物賃貸借契約書で、「2026年4月1日から2028年3月31日」と期間が定められている場合、それぞれが始期と終期ということになります。

 

ビジネスの場面において特に重要な期限は、「債務の履行期限」と「期限の利益」です。
 
 ビジネスにおいて、代金の支払義務にしても何か物を交付する義務などにしても、ほとんどの場合、その期限が設けられます。契約書上は、「〇月〇日限り」と表現されることが多いですね。当然ですが、この履行期限を超えてしまうと債務不履行となり、損害賠償義務が発生することがあります。そのため、履行期限の確認は契約管理において必須となります。


 最近では、いわゆるサブスク契約が増えてきており、債務の履行期限というわけではありませんが、自動更新になってしまうタイミング、言い換えれば更新拒否をする期限についても注意・管理が必要です。

 

 もう1つ、契約書でよく見る期限があります。それは「期限の利益」です。
 期限の利益とは、要するに、期限までは債務を履行しなくてもよい利益のことです。住宅ローンでいえば、1回で数千万円を返済しなければならないわけではなく、毎月分割して支払えばよいですよね。「将来払いが許される権利」と言い換えてもよいでしょう。


 契約書では、「〇〇したときは、当然に期限の利益を失う。」という条項がよく設けられます。期限の利益喪失条項などと言いますが、「〇〇」という条件を満たしたら将来分を含めて直ちに支払ってもらいますよ、というものです。契約書上は、「債務者の破産又は再生の申立て」「銀行取引の停止」「弁済を2回以上怠ったとき」などがよく条件として使われています。


 債務者の支払能力が怪しくなった場合には、「支払いは将来でもいいですよ。」などと悠長なことは言っていられないので、直ちに期限の利益を失わせて債権全額の回収を図ろうというわけです。

 ここで「債務者の支払能力が無くなってから期限の利益を喪失させては遅いのでは?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。それはそのとおりなのですが、保証金を預かっている場合などは、この期限の利益喪失条項を使って債務者が支払能力を失っても債権回収を図ることができます。

 

 使うのは、「相殺」です。相殺する、ぶつけて消える側の権利を自働債権、ぶつけられて消える側の権利を受働債権と言います。
たとえば、売主が買主から保証金を預かっているとします。この場合、売主は買主に代金を請求する権利(代金請求債権)を、買主は売主に保証金を返せという権利(保証金返還債権)を、それぞれ持っているということになります。

 

いざ、買主が代金を期限になっても支払わないという場合、売主は代金請求債権を自働債権、保証金返還債権を受働債権として、相殺します。結果、代金請求債権の金額の範囲で、保証金返還債権は消滅しますから、その分、売主は買主に保証金を返さなくてもよい、ということになるのです。

 

ところが、この相殺は、受働債権の方に「期限」が付いているとすることができません(民法第505条第1項)。期限を付けてもらっている側からすれば、その期限を無視して相殺されると困るからです。

このルールがあるため、上記の例でいえば、代金の支払い期限が1年後になっている場合、いくら買主に信用不安が生じていても、売主は1年後にならないと相殺をすることができません。

こうなると困りますので、契約実務上は、債務者が支払義務を怠るなど債務者の支払能力が怪しくなった兆候が見られた場合には、「期限の利益を喪失する。」としておき、期限があってもそれが無くなるようにしてすぐに相殺できるようにしています。


 いかがだったでしょうか。

 最後に、クイズになりますが、実際に裁判所でも問題となった合意があります。それは、「出世払い」です。「出世したから返すよ。」というのは、期限でしょうか、それとも条件でしょうか。
 期限は将来必ず起こる出来事、条件は将来必ず起こるとも限らない出来事でしたね。もし、出世が「条件」だとすると、場合によっては返さなくてもよいということになりますし、逆に「期限」だとするといつかは必ず返さなければならないということになります。
 ご興味がある方は、インターネットで検索されてみてください。

以上

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