第123回 物権と債権
弁護士の内田です。
最近、体調を崩したこともあって筋トレの量を減らしてランニングなどによる下半身と体力の強化と、腸活を始めました。食物繊維と善玉菌を意識して食事をするようになったのですが、体感できるほど調子がいいです。
免疫力のほとんどは腸で決まるとも言われていますので、是非、皆様も腸活を試されてみてください。
さて、本日のテーマは、「物権と債権」です。
民事において、権利というと、大きくは、この物権と債権に分かれます。
簡単に言ってしまえば、物権は基本的に誰にでも主張できる権利、債権は基本的に特定の人にしか主張できない権利です。
たとえば、靴の売買を例にお話しますと、あなたがA社から靴を買ったとします。あなたは、この靴の所有権を取得することになるのですが、これはA社だけなく、誰にでも主張できます。A社から返してと言われても返さなくてよいですし、他の誰かから引き渡すように言われても拒否できます。
逆に、A社は、あなたに対して売買代金債権を取得することになるのですが、これはあなたにしか主張できません。仮にあなたが靴代を払わなかったとしても、代わりにあなたの家族などに請求することはできないのです。
このように、物権については、誰にでも主張できる強力な権利であるため、「対抗要件」という制度が用意されています。対抗要件とは、「ある要件を満たさないと物権は第三者には主張できないからね。」という仕組みで、たとえば、不動産の所有権は、基本的に登記をしないと第三者に主張できないようになっています。抵当権なんかもそうですね。
では、動産(不動産以外の財産)はどうかというと、「引渡し」と「即時取得」という制度で成り立っています。
たとえば、BさんがCさんに靴を売って、所有権がBさんからCさんに移ったとします。でも、Cさんがその靴を中々取りに来ないので、BさんはDさんにもその靴を売ると言ってしまい、Dさんからも代金を受け取ったという場合について考えてみます。
Bさんは、先にCさんへ靴を売ってその所有権を失っているので、普通に考えたらDさんはBさんから靴の所有権を取得できないはずです。そして、Cさんは先に所有権を取得していますから、CさんはDさんに対して、「それは私が先に買った靴で私の所有物だから、私に引渡したまえ」といえそうですよね。
しかし、そうはなりません。まず、民法には、
(動産に関する物権の譲渡の対抗要件)
第百七十八条 動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、第三者に対抗することができない。
という条文がありますので、靴の引渡しを受けていないCさんは、そもそも第三者であるDさんには自分の所有権を主張できません。
「でも、DさんもBさんから所有権を取得できていないのだから、Dさんも所有権を主張できないのでは?」と思われるかもしれません。しかし、これについては、民法に、
(即時取得)
第百九十二条 取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。
という条文があり、落ち度なく普通に動産の引渡しを受けた人は、仮にその売主に所有権がなかったとしても、適法に所有権を取得することになります(反面、この事例でいえば、CさんはBさんから一度は得ていた靴の所有権を失うことになります。)。
ちょっと面白い制度ですよね。よく考えたなと思います。人間は、普通、その物を持っている人がその物の所有者なのだろうと考えることから、物を持っていた人を信じて取引に入った人を保護する仕組みにしているのですね。
ついでいえば、BさんはCさんに靴を引き渡す義務を怠ったことになりますので、Cさんに対して債務不履行に基づく損害賠償義務を負うことになります。これは、CさんのBさんに対する「債権」です。
法律用語でよく債権と債務という言葉が出てきますが、これらは同じものを指していて、見る側で呼称が違うだけです。上記の例でいえば、賠償をしなければならない、義務者から見れば「債務」ですし、賠償を請求できる権利者から見れば「債権」です。権利者側から論じるときは損害賠償債権と言いますし、義務者側から論じるときは損害賠償債務と言うのです。
今回は、ロースクールにおいて初めの方に習う基本的なことでしたが、意外とよく理解されないまま実務で使われている言葉でしたので、お話させていただきました。
いかがだったでしょうか。
ナポレオンは、40回の戦いに勝ったことよりも民法典を作ったことを誇りに思っていたと言われていますが、たしかに、よくできた仕組みだと思います。
民法は、民事法で最も基本の法律であり、かつ、概念的にも条文数的にも一番勉強が大変な法律です。今後も、実務上、知っておいた方がよさそうな民法知識を時折解説したいと思います。
以上






