見本となる解雇手続のご紹介

弁護士の内田です。

 齢40にも近づいてくると体力の低下を感じざるを得なくなってきたため、今年から肉体改造に取り組んでいます。

 何事も数値で見えた方がモチベーション維持に良いため、筋肉量、体脂肪率、肉体年齢などを表示してくれる体重計を購入したのですが、運動の有無によって露骨に数値が変わります。

 メーカー名は控えさせていただきますが、1日で筋肉が1kg増減したり、体内年齢が3歳ほど若返ったり老化したりします。

 法律家として、「これは本当に正確な数値なのか?景表法上の不当表示に該当するのではないか?」と思わない面もなくはないですが、あえて大袈裟に数値表示してくれることで運動へのモチベーションを刺激してくれているのだと思ってとりあえずは気にしないことにしています。程度的なものはともかく、最低でも「増えたか」「減ったか」レベルでは合っていると思いますし・・・。

 さて、本日のテーマは「見本となる解雇手続のご紹介」です。

 ご存知のとおり、解雇の有効要件は曖昧かつ企業側に厳しいため、原則としては問題のある社員を即解雇することは推奨されません。このメルマガでも何度か解説したとおり、①まずは退職勧奨を試し、②退職勧奨に応じないのであれば粛々と軽い懲戒処分から課していき最後に解雇を実行する、というのがセオリーです。

 抽象論としては上記のとおりですが、具体的な事案に当てはめてみないとイメージが出来ないと思います。近時、上記の手順を踏んだ典型的な解雇有効例の裁判例(千葉地裁令和3年5月26日判決)が出されましたので、今回はそれを紹介したいと思います。

 事案を要約しますと、使用者は病院、労働者は当該の病院の労働者で、主だった時系列は以下のとおりです(以下、使用者をY、労働者をXと省略します。)。

平成16年4月 X Yへ入社。精神科ソーシャルワーカーの業務を担当

平成17年6月~平成26年3月 X 休業(自律神経失調症を主張)

平成26年4月 X 復職

       その後、4カ月の間に3回15分以上遅刻

       患者の個人情報を保管する部屋の施錠忘れ2回

平成26年7月頃 X 食堂にて無銭飲食を複数回行う。その後も遅刻多数。

平成26年7月 Y⇒X 出勤停止(20日)の懲戒処分

平成26年8月 Y⇒X 器材センターへ異動を命じる

平成27年9月 X 業務に使用していたUSBを紛失、その他不適切行為

平成27年10月 Y⇒X 出勤停止(20日)の懲戒処分

平成27年11月 Y⇒X 解雇

 裁判所の解雇に関する判断の要約は、以下のとおりです(先行する各懲戒処分の有効性も争われていましたが、いずれも有効と判断しています。)。

1 解雇事由該当性(本件では「著しく不良で就業に適さない」という就業規則の要件への該当性ということで論じられていますが「合理的な理由」(労働契約法第16条)の有無について判断しているとも評価できます。)

 ①復職後、4カ月以内に3回にわたり15分以上遅刻していること、②患者の個人情報等を保管している部屋の施錠忘れを2回していること、③無銭飲食で懲戒処分を受けた後も遅刻を繰り返している事、④勝手に自分の担当業務でない園芸作業に参加したこと、⑤30分間離席していたこと、⑥器材センターで行っていた単純作業について作業手順と見本の交付を受けていたにもかかわらずXが作成したものには不良品が多かったこと、などから解雇事由に該当すると判断しました。

2 社会的相当性(労働契約法第16条の「社会通念上相当」)

 ①Yからの注意書に署名押印せず、自分の腕時計の時刻からすると遅刻していないと強弁するなど反省が見られず、改善は見込まれないこと、②XにPSW業務その他対外的業務を行わせることは、時間管理・情報管理・規範意識の点から問題があること、③なお、Xの不就労期間は9年以上に及び(実質2年2カ月程度の勤務)、その間Yは賃金を保障していること、から解雇は社会通念上相当と判断しました。

 以上が事案の要約です。この事案には解雇のエッセンスが凝縮されています。1つ1つポイントを見ていきましょう。

 まず、解雇事由該当性のところです。

 ポイント①は、裁判所は遅刻・欠勤には厳しいということです。社会人失格の事実としての客観性が高いからです。これに対し、能力不足や協調性の欠如といった判断者の主観に依存しがちな事由による解雇はなかなか認められません。ポイント②は、器材センターの業務について使用者(Y)が労働者(X)に対して作業手順と見本の交付を行っていたことを主張立証できていたことです。使用者敗訴の裁判例では、会社:「Xはこんな簡単な作業も出来ていませんでした!」⇒裁判所:「会社はXにその作業方法をちゃんと指導していたのですか。」⇒会社:「それはきっと誰かが・・・。」といった具合で具体的に指導していたことを主張立証できていなかった例が見受けられます。

 次に社会的相当性のところです。

 最も重要なのが「反省していないことを客観的に推認させる事実があること」です。極端に言ってしまえば、裁判所のロジックは「処分(指導)があった⇒反省している⇒改善の可能性がある⇒解雇無効」なので、逆に「処分(指導)があった⇒反省していない⇒改善の可能性がない⇒解雇有効」というロジックも成り立ちます。勿論、これだけで社会的相当性が認められるというわけではありませんが、多くの裁判例で使用者側は「改善の可能性がないとはいえない。」といった言い回しで敗訴していることを肝に銘じておくべきでしょう。

 次のポイントとして、Xの問題行動と業務との関連性がしっかりと論じられているところにあります。使用者側敗訴の裁判例では、「Xの行為によってYの業務に支障が生じたことを認定するに足りる証拠はない。」「Xを解雇しなければYの業務に支障を生じるおそれがあると認めるに足りる証拠はない。」などの「解雇しなくても業務に支障は生じないでしょ。」という理由で使用者側は負けています。

 なお、③の9年間も勤務していないのに賃金を保障していたという事実に驚いた方もいらっしゃるでしょう。私も驚きました。こういった事実もないと解雇が認められないというわけではありません。裁判所はXに対して「あなた、9年間も働かないで賃金をもらっていたのだから、もう争うのは止めなさいよ。」と言いたかったのだと思います。

 いかがだったでしょうか。

 問題社員を放置することは、必ず会社にとってマイナスになります。賃金コストの問題は勿論ありますが、それ以上に捨て置けないのが他の従業員に対する悪影響です。

 問題行動の後始末を取らされる従業員の業務効率は低下しますし、問題行動が放置されると真面目に働いている従業員のモチベーションダウンにもつながります(本件のように、働いてもいない従業員に賃金が払われていると知ったら、他の従業員はどう思うでしょうか。)。

 裁判所が解雇に対して厳しすぎる対応を取っていることを知ってか知らずか、昨今では問題社員が増加傾向にあります。そのような中でも、問題社員に負けない強い会社にしていきたいものです。

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