メルマガ記事「無料求人広告について」
弁護士の長船友紀です。
先日、ついに新元号が発表されましたね。
「平成」の元号が発表されたとき、私は小学校3年生くらいだったと思いますが、時の小渕官房長官が「平成」の文字を掲げた瞬間を鮮明に覚えています。
今回も「令和」の文字が菅官房長官によって掲げられる瞬間をワクワクしながら,見ていました。「令和」が皆様にとって,素晴らしい時代になることを期待しております。
さて、「平成」の終わりを意識し始めた今年の3月21日、スポーツ界からは、イチロー選手の引退というビッグニュースが流れてきました。
イチロー選手は、築いてきた素晴らしい記録やプレーの一挙手一投足が美しいだけでなく,その発言に励まされてきました。
特に、僕にとって、すごく苦しかった司法試験の受験生時代、イチロー選手の「小さいことを積み重ねるのがとんでもないところへ行くただひとつの道だと思っています。」という言葉に背中を押され、挑戦を諦めることなく,司法試験に合格できたと思っています。
これをお読みの会社の社長様や従業員様も僕と同じようにイチロー選手の数々の言葉に自分を重ね合わせて、奮い立たせてきた方も多いのではないでしょうか。
日々結果と真摯に向き合っているスポーツ選手の言葉というのは、人生の教訓となることも多いですが、プロ野球を引退した後のイチロー選手の言葉にも注目していきたいと思います。
さて、今回は、インターネット上での無料の求人広告を巡るトラブルについて、お話しさせていただこうと思います。
(1)これをお読みの皆様、以下のようなご経験はございませんか?
「インターネット上で無料の求人広告を掲載しませんか。」と電話で勧誘を受けた経営者のBさんは、利用規約を確認しないまま完全無料のつもりで広告掲載を申し込んだ。
ところが、後になって広告業者から「利用規約に定める無料掲載期間を過ぎた後の広告掲載はしないという通知がなかった。」と言われ、事後に広告掲載料を請求された。
担当者は電話口で「無料にします。」と述べていたが、利用規約を確認すると、無料期間終了の数日前までに文書で広告掲載停止通知を送らない限り,広告掲載が継続し、正規の広告料金が発生すると定められていた。
この事例は、弁護士会のひまわりホットダイヤルという中小企業向け弁護士予約サービスに多数の相談が寄せられているということで取り上げられている話題です。
相談が寄せられているケースでは、Bさん側の弁護士が介入しても、相手も弁護士を立て、訴訟まで提起してくるケースもあるようです。
(2)このケースには二つの大きな問題が秘めています。
まず、会社や個人事業主様には、消費者契約法の適用がないことです。
消費者契約法では,
ア)契約の対象となる物やサービスの内容・品質・効果などの説明、価格や支払方法、その他重要な事項(契約内容)について、事実と違う説明をした場合
イ)消費者の利益となる旨を告げながら、重要事項について不利益となる事実を故意に告げなかった場合などには、契約を取り消すことができます(消費者契約法4条)し、任意規定の適用による場合に比べ、消費者の権利を制限しまたは義務を加重する条項であって、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものは無効となります(同法10条)。
これらの規定を使えば、今回のケースでも契約を取り消ししたり、無効にすることが可能なように思えます。
しかし、消費者契約法は、あくまでも「消費者」を「事業者」から守るための法律であり、「会社」や「個人事業主」を守るための法律ではないため、本件のように、会社や個人事業主が契約した求人広告には、適用されません。
(3)次に、契約とは何かです。
この点、契約とは、当事者間の合意であるところ、合意の内容は、口頭でも構わないのですが、後で争いになった場合には、口頭での合意は立証することが難しいのに対し、書面に記載されていることは、説明がなかったとしても、合意があったと認定されやすいのです。
したがって、担当者が電話口で「無料にします。」と述べていたとしても、それをBさん側が立証するのは困難であるのに対し、業者は規約という書面を盾に広告料金を請求しやすい構造にあるといえます。
もちろん、本件のような場合に,裁判を起こされたとしても、黙って、請求を認めることはなく、規約は契約の内容になっていないとか、説明義務違反などを主張して争っていくことになるとは思いますが、その労力、時間、費用を考えると,「無料」という言葉に踊らされることなく、契約時に、規約を含む契約関係の書類を穴が開くまで見ておくことが重要です。
そして、この点のチェックを弁護士に頼むのも一つの手段といえます。
以 上