法律が定める様々な利率
弁護士の内田です。
よく企業に関するニュースで「今年は前年に比べて営業利益が〇%成長となった。」などと報じられることがあります。
成長率の方に目が向きがちですが、忘れてはならないのは成長の継続性です。複利計算というのは恐ろしいもので、年5%成長でも10年続ければ約63%成長になり、30年続ければ約332%成長になります。
成長が単発(短期)で終わる企業と、継続的に成長し続ける企業とでは、数年先では大した差が生まれないかもしれませんが、数十年後にはもう追いつけないほどの差が生まれます。
このことは、企業を構成する「人」についても同じことが言えます。
そうすると、企業においては成長し続ける「仕組み」が重要ということになります。「新人教育はするが、後はOJTに委ねる。」という企業も多い中、戦略的に研修等を実施してスキルアップに投資している企業もあります。
人材の成長への投資を積極的に行った企業が漏れなく成長しているかというと、そういうわけではないかと思いますが、どうも表彰されるような企業は人材への投資を重視しているところが多いようです。
法律事務所は、「弁護士なんだから自分で勉強しろ。」という感じで基本的に事件を一緒に処理するという意味でのOJTくらいしかしないところが多いようです。最近、「教育投資が大切だ。」とよく目にするので、何か研修的なものを考案してみようかと思った今日この頃です。
さて、今回のテーマは、「法律が定める様々な利率」です。
利率とは言いましたが、遅延損害金率など広く法律が定める「率」について解説していきたいと思います。
まず、最も基本的な利率は「法定利率」です。これは民法404条第2項に定めがあり、年3%です。これが金銭債務(お金を払う義務)の不履行があった場合の損害金(遅延損害金)の基本的な率にもなっています(同法第419条第1項)。ちなみに、改正前の民法では、年5%でした。
「3%?5%?大したことないじゃん。」と思われるかもしれませんが、これが意外と馬鹿にできません。たとえば、1000万円の支払義務を怠った場合には年3%でも1日約822円の遅延損害金が発生する計算です。昼食代・夕食代が無くなるくらいのインパクトですね。
しかし、この%の変更でもっと大きな変動を受ける計算があります。それが逸失利益の計算です。
「逸失利益?聞いたことがない言葉だ。」と思われる方も多いと思います。
たとえば、年収500万円のAさん(30歳)が交通事故に遭って両目を失明したとします。この場合、Aさんは100%労働する能力を失ったと考えて、67歳までの37年分の年収(将来得られてであろう利益)を損害賠償請求することができます。これを、逸失利益と言います。
単純に、年収×100%×37年で計算しそうなものですが、そうではなく、法律の世界では中間利息の控除というものを行います(民法第417条の2)。これはどういうことかと言うと、本来、Aさんの損害は毎年発生するもので、賠償を受けるときに全部が発生するわけではありません。そうすると、Aさんは将来の賠償金をまとめてもらうことで毎年賠償してもらうよりも多くのお金を運用することができ、結果的に毎年賠償してもらうよりも多くのお金を得られるということになってしまいます。
これは公平ではないということで、本来得られなかったはずの運用利益分(中間利息)は控除しようということになっていて、そのための数字としてライプニッツ係数というものが使われます。この係数を使うと、中間利息を控除した金額を簡単に算出することができます。
実は、このライプニッツ係数が年率5%と3%で大きく異なります。たとえば、37年のライプニッツ係数は、年率5%で16.7113、年率3%で22.1672です。
上記の例に当てはめると、年率5%だと、500万円×100%×16.7113=8355万6500円ですが、年率3%だと、500万円×100%×22.1672=1億1083万6000円になります。
このように、たかが2%の差で賠償額に2727万9500円もの差が生じるのです。
法律が定める率といえば、やはり有名なのが利息制限法です。クレジットカードの約款などを見ていただければ分かるとおり、遅延損害金率を3%に設定している会社はほとんどありません。
法定利率とはあくまで契約当事者が何も率について決めなかった場合に適用される利率であって、当事者で法律の定めとは別の率を定めたならばそちらの方が優先します(なお、商人でない個人間では率について何も定めなければ、利息は無しになりますが、遅延損害金については3%が適用されます。)。
とはいえ、当事者だけに率の設定を委ねていると暴利行為に走る者が出てくるので、上記の法律が上限を定めてそれを超える率を無効にしています。
利息制限法では利息について、元金10万円未満なら年20%、元金10万円以上100万円未満なら年18%、元金100万円以上なら年15%と定めています。
また、同法は遅延損害金の率についても上記の率の1.46倍を超える場合は無効にするとし、貸金業者などについてはこの計算で20%を超える場合は20%を上限するとしています。
「20%?よく14.6%という数字を見るけど」と思われた方もいるでしょう。この20%というのはあくまでお金の貸し借りを規律する利息制限法の定めであるため、クレジットカードでのショッピングなどには適用されません。企業と消費者のお金の貸し借り以外の契約については、消費者契約法が適用され、同法で遅延損害金率の上限は14.6%と定められています。
どちらかといえば、この14.6%の方をよく見ます。
遅延損害金は不払い抑止のために高率に定められることが多いのですが、実際に遅延損害金が発生するような状態にまで至った場合には弁済金のほとんどが遅延損害金に充当されるようになり、元金はあまり減らなくなります(特に住宅ローンなど元金が太いものではその傾向が強いです。)。
そして、こうなると最終的には破産等の結末に至ることが多いです。
いかがだったでしょうか。
利息や遅延損害金の計算は面倒で分かりにくいものではありますが、経営を考える上でも家計を考える上でも重要なものです。
これを機会に、身の回りの「率」について興味を持っていただけたのなら幸いです。
以上