第47回メルマガ記事「和解書の意義」2019.12.26
弁護士の内田です。
今年も終わりますね。毎年言っていますが、あっという間に1年が過ぎ去っていきますね。
今年も皆さまのおかげで順調に年を越すことができそうです。ここに、読者の皆様に御礼を申し上げます。
ところで、お礼といえば「ありがとう」ですが、ありがとうの語源をご存知でしょうか。諸説あるようですが、昔の「有り難し」が語源になっているという説が有力のようです。
有り難し・・・つまりめったにない、ほとんどない、ということで、他人が自分のために何かをしてくれることを、本来的にはめったにないことをしてもらったという意味で昔は「有り難し」と言っていたのだと思います。
この逆は、「当たり前」です。他人に何かをしてもらうのが当たり前と考えれば自分のために何かをしてくれた人に対して感謝の念を持つことはありません。
この当たり前という考え方につい陥りがちになるものです。「給料を払っているんだから働いて当たり前」「客としてお金を払っているんだから自分の要求に応えて当たり前」・・・というようにお金が絡むととかく人は他者に対する感謝の念を忘れがちになります。
「有り難し」の気持ちをもって来年も仕事をしていきたいと思います。
さて、本論ですが、今回は、和解書を作成する意義についてお話します。
通常、弁護士が交渉した結果、相手とある紛争について解決の合意が出来ると、和解書(示談書)を作成します。
和解書内容は事案にもよるのですが、概ね、確認条項、給付条項、清算条項で構成されます。
確認条項とは、当事者がどのような権利義務を有するのかを確認する条項で、たとえば損害賠償であれば、「甲は乙に対し、不法行為に基づく損害賠償義務として金〇〇万円を支払う義務があることを認める。」というような内容になります。
給付条項とは、確認条項で確認された債務につき、どのように弁済するのか、権利者から見ればどのように給付してもらうのかを書いた条項です。上記の例であれば、「甲は乙に対し、前項の金員を下記のとおり乙名義の口座に振込方法により支払う。支払手数料は甲の負担とする。」というような内容になります。
そして、和解書の作成するにおいて最も重要といっても過言ではない清算条項で締めくくります。清算条項とは、和解書に記載された権利義務以外に、当事者間に何らの権利義務もないということを認める条項です。「甲及び乙は、本件において、本書に定める他何らの債権債務もないことを相互に確認する。」というように書きます。
この条項が入ることにより、甲は乙に対して、あとで「別にこういう請求権もあったから追加でお金を払え。」と言うことができなくなります。
この条項が入ることにより、紛争が終局的に解決に向かうことになるのです。
清算条項を書く上で重要な点は、上記の「本件において」を入れるかどうかです。通常、和解書の冒頭で問題となっている紛争の内容を記載して「本件」としますが、「本件において」と記載すると、その本件に限っては他にあとで請求できないという意味になり、逆に他の事実に基づいて別の請求をすることは妨げられません。
たとえば、2019年1月1日にAさんがBさんを殴って怪我をさせたという事件を「本件」として定義すると、清算条項に「本件において」が書かれていると、BさんはAさんに対して和解した後でも「2019年2月1日にもAさんから蹴られたことがあるから、その損害賠償請求として〇〇円払え。」と別の事実に基づいてさらに請求することができることになります。
逆に、「本件において」がないと、清算条項の効力は本件に限られないので、上記のような請求はできなくなります。
その他、和解する意義として挙げられるのは訴訟になった場合の立証責任の緩和です。
訴訟になった場合には、事実関係に応じて適用される法律から導かれる「要件事実」という事実を漏れなく立証しなければならず、これが困難な場合も多いですが、和解をすると、原則として単に和解が成立したことだけを立証すれば足りるので立証のハードルが下がります。
以上のことから、紛争を終局的に解決に導こうとする場合には、必ず和解書は交わしておいた方がよいということになります。
いかがだったでしょう。
今年はこれで終わりになりますが、引き続き企業の役に立つ法律事務知識を本メルマガにおいて配信し続けてまいりたいと思いますので、来年もお付き合いのほどよろしくお願いいたします。