第58回メルマガ記事「同一労働同一賃金の原則」2020.11.26

 
 弁護士の内田です。

 

  今年ももう終わりますね。毎年、二桁月になると「今年も終わるなぁ」と思います。

 

 今年も様々な事件に出会い、解決してきました。ただ、抽象化すると「様々な事件に出会い、解決している。」のはほとんどの弁護士がそうで、差別化という観点からすると、来年は弁護士の枠に捉われない新たな仕事について検討した方がよいかなとも思っています。

 

 当法人では、年の初めに方針発表会というものを開催しています。そこでは、各分野のチームリーダーが今年の目標などを発表することになっているので、私もぼちぼち我が企業法務チームの目標を考えなければなりません。

 あまりに高すぎる目標を設定するとかえってチームのモチベーションが低下しますし、低すぎてもモチベーションは向上しません。目標設定って難しいですね。

 

 

 さて、冒頭で「差別化」という言葉を使いましたが、それに少し関連して、今回のテーマは「同一労働同一賃金の原則」です。先月、これに関する最高裁判例が出ましたので、その解説がメインになります。

 

 事件としては、①大阪医科薬科大学事件、②メトロコマース事件、及び③日本郵便事件の3つです。

 概略すると、①は有期労働者が賞与について無期労働者と差異があるのは不合理だと主張し(私傷病欠勤中の賃金についても争われていますが、今回は話を分かりやすくするために解説は省略します。)、②は同様に退職金が、③は同様に年末年始勤務手当、祝日給、扶養手当に争われた事案です。

 

 結論から言いますと、①と②では、原審では有期労働者が勝訴していたのに最高裁では有期労働者が逆転敗訴しています(有期労働者に賞与・退職金を支給しないとすることが不合理とはいえないという判断。)。逆に、③では有期労働者が逆転勝訴しています(有期労働者に上記各手当を支払わないのは不合理という判断。)。

 

 最高裁は、具体的な賃金体系が同一労働同一賃金の原則に反するかどうかは、①当該使用者における当該賃金の性質、②当該賃金の支給目的、③労働者の業務内容及び当該業務に伴う責任の程度、④職務の内容及び配置変更の範囲、⑤その他の事情の5つの事情を考慮して、その労働条件の相違が不合理と評価することができるものであるか否かにより判断するとしました。

 

 そして、賞与・退職金については、労務対価の後払いや功労報償的な性質があること(①)、いわゆる正社員(≒無期社員)としての能力を有する者の定着を図る目的があること(②)、業務内容・責任が違うこと(③)、業務内容変更の有無・就業場所変更の有無に違いがあること(④)、正社員への登用制度があること(⑤)、などを指摘して有期労働者に支給しないことが不合理とはいえないとの判断をしています。

 

 この判例の判断構造を踏まえると、予想外に有期労働者に賞与や退職金を支払うことになりたくない会社は、賃金規程等で賞与・退職金の支給目的(正社員の定着)を明記し、雇用契約書、就業規則、職務分掌規程等で正社員には職務内容・就業場所の変更があるが、有期労働者にはそれがないことを明記し、正社員登用制度もしっかりと運用すべきということになります。

 勿論、基礎とする事実関係が違えば判断は異なりえますので、上記の措置を講じて置けばどのような場合でも大丈夫というわけではありませんが、対応の一応の目安にはなるでしょう。

 

 最後に、唯一、会社側敗訴となった事案です。

 

 最高裁は「年末年始休暇手当」の性質を、多くの労働者が休日として過ごしている郵便業務の最繁忙期(年末年始)においてその業務に従事したことの対価としての性質を有すると認定し、この性質等に照らせば契約社員(有期労働者)に支給しないのは不合理としました。

 また、祝日給についても、最繁忙期である年始期間に勤務したことの代償として割増支給される趣旨のものであると認定し、これについても支給しないのは不合理としています。

 

 扶養手当については、労働者の生活保障や福利厚生を図り、扶養親族のある者の生活設計等を容易にさせることを通じて、長期継続雇用を確保する目的で支給されていることから、契約社員(有期労働者)についても扶養親族があり、かつ、相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば扶養手当を支給することとした趣旨は妥当するとして、不支給は違法としました。

 

 特に、扶養手当については、特に明確な理由がないままに正社員にのみ支給している会社は少なくないのではないでしょうか。

 

 

 この最後の判例を踏まえると、多くの企業では手当の見直しを迫られそうです。手当を削除する、手当の名前を変える、手当を削除して基本給などの他の賃金に組み込む、手当の削除と新しい手当の新設を併せて行う、など様々な改革方法が考えられますが、注意しなければならないのは就業規則の不利益変更です。

賃金規程等の不利益変更になるのであれば、原則として各労働者の同意を得ながら進めるべきですし、同意を得られない場合に備えて変更の合理性の立証準備が必要になる場合もあります。

 

 

 いかがだったでしょうか。

 

 特に、扶養手当の部分は衝撃を受けた方も多いのではないかと推測します。

 原審と最高裁の判断が分かれていることから分かるとおり、「不合理」かどうかの判断は非常に難しく、予測可能性があまりありません。

 このことを踏まえてか、今の主流は手当の種類が少ないスッキリとした賃金体系です。手当が多いと管理も煩雑になり、それこそ事務方の働き方改革に反します。

 

 本判決を機に、シンプルな賃金体系を検討してみてはいかがでしょうか。

 

 

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