第54回メルマガ記事「意外と知らない破産」2020.7.23
弁護士の内田です。
新型コロナウイルスが再び拡大しそうで恐ろしいですね。ニュースで国民の大多数はこのタイミングでGoToキャンペーンをするのはいかがなものかとの意見だと言われていました。
個人的には、そのような意見が多くても仕方がないかと思います。
人命と経済・・・日本国憲法の観点からすると人命が最優先ということになりますが、過度な自粛は経済苦による人命の喪失をもたらす危険性もありますので、何ともバランスを測るのが難しい問題といえます。
さて、今日のテーマはで「意外と知らない破産」です。
この仕事をやっていると「やっぱり破産は増えていますか。」と尋ねられることが多いですが、少なくとも当法人では「例年通り」という感じで破産案件が激増したという印象はありません(目に見えて増えているのは、離婚と企業を相手とする相談です。)。
ところで、皆様は「破産」と言うとどのようなイメージを持たれているでしょうか。
人生の終わり、人生のどん底・・・というような極めて悲観的見方をされる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、実のところ、破産は世間一般で言われているほどネガティブなものではありません。破産は、国の力で誠実な債務者に再生の機会を与える法制度です。
今回は、意外と知らない「破産」制度について、簡単に解説したいと思います。
破産とは、簡単にいってしまえば、保有している財産をお金に換えて、それを債権者に対して平等に配当することと引き換えに、借金を全て免除する制度です。
こういうと「全てを失うのか・・・」と思われるかもしれませんが、必ずしもそういうわけではありません。まず、いわゆる生活必需品と言われるようなものは換価対象になりません。家にある布団とかソファなどはよほど高級なものでない限り、売却の対象とはならないのです。また、それとは別に99万円までなら保有してよいことになっています。仕事道具も売らなくてよいことになっています。
破産に至った方は、破産申立て時点ではほとんど財産を有しないことが多く、上記の基準に照らすと何一つ売却しなくてもよいということが多々あります。
下関のような地方都市では破産して困るのは、自動車、不動産を有している人です。これらの財産はよほど売れないという事情がない限り、換価対象になります。但し、自動車は、古い自動車だと売却の見込みなしということで売らなくてもよい場合が結構あります。
以上のとおり、破産しても必ずしもすべての財産を失うというわけではないのです。
なお、法人については基本的に全ての財産が換価対象になります(あまりに売れない物は代表者個人が買い取ることもあります。)。
「でも、ブラックリストに載ってしまうんじゃないの?」とおっしゃられる方もおられるかもしれません。
たしかにそのとおりです。ブラックリストというのは俗称で、正確には信用情報登録と言います。破産の場合、5~7年程度は信用取引(クレジットカードの使用やローンを組むこと)ができなくなると思った方がよいです。
しかしながら、弁護士のところに破産の相談に来られる方が、借金を約定どおりきちんと払えているということはほぼありません。相談に来られた段階で何度も借金の支払を遅延しており、その支払遅延の情報が信用情報登録されているのです。ですから、破産するまでもなく既に新たに信用取引をすることはできない状態になっているのです。
そうすると、信用情報登録されるというのは破産の大きなデメリットとはいえないでしょう。
あと、破産には国が発行している官報に載るというデメリットがあります。しかし、皆様、官報って見たことがありますか?どこで見ることができるか知っていますか?
ほとんどの方の答えが「No」でしょう。ほとんど誰も見ないのです。
細かいこといえば職業制限というものもかかります。たとえば、銀行員など業としてお金を預かる仕事です。実務上、この職業制限で引っかかってしまうことが多いのは保険外交員さんです。
このような職業上、どうしても破産は選択できない方については、「再生」という手続を選択することになります(債務を大幅に圧縮して分割して支払っていく制度という理解で結構です。)。
次に、破産の流れについて簡単に解説します。
まず弁護士に破産申立て(個人)を依頼します。その後は弁護士と共に破産申立て書面を作成し、疎明資料を添付して裁判所に申立てを行います。ここまでが3~6カ月程度です。
申立て後は、裁判所から補正の依頼があることもあり、それに対応すると「破産手続開始決定」という決定が出されます。申立てから数日で出されることもあれば、補正の関係で1か月くらいかかることもあります。
この破産手続開始決定により破産手続が開始し、原則は、裁判所が選任した「破産管財人」が破産者の財産を調査・換価し、また免責不許可事由(こういう事由がある場合には免責しませんよ、と破産法に定められた事由)の調査を開始します。
しかし、前述したとおり、そもそも売るような資産のない人の方が多く、売るような資産がないことが明らかな場合には、「同時廃止」といって、破産手続の開始と同時に破産手続を廃止するという決定がなされます。
個人の場合、この同時廃止が非常に多いです。
なお、破産手続開始決定時点で破産者が保有する財産が換価対象となる財産となり、同決定後に取得した財産は新得財産といって換価対象にはなりません。
破産手続開始後は、基本的には破産管財人が調査・換価を進めていきますので、破産者がすることはあまりないのですが、破産管財人からの質問等があれば当然対応しなければなりません。破産管財人の指示に逆らっていると「免責」(あとで説明します。)が出なくなります。
破産手続が終結すると、最後に裁判所が「免責」決定という決定を出します。この決定により、借金はいわゆる「チャラ」になります(厳密には自然債務化するということになりますが、返済しなくてもよくなるという理解で問題ありません。)。
ただ、さすがは国の制度というわけで、公租公課(所得税、市県民税、国民健康保険料など)は免責になりません(これを「非免責債権」と呼び、破産法上、いくつか「こういうのはチャラになりませんよ。」という債権が定められています。)。
この「免責」が破産のゴールになるのですが、注意しなければならないのが「免責不許可事由」です。
破産は国の力で借金を全て免除するものですから、「こういうことがあると免責しませんよ。」という事由が破産法で定められています。これを免責不許可事由と言います。
たとえば、ギャンブルや浪費で支払不能に陥った場合や財産を隠したり知り合いの名義に変えて「財産逃がし」をした場合、破産管財人の調査に協力しなかった場合などが免責不許可事由として定めてあります。ですから、破産を検討する場合には、必ず弁護士に相談をしておいた方がよいでしょう。
なお、仮に免責不許可事由があったとしても、裁量免責といって裁判所の裁量で免責してくれることがあります。統計的には、裁量免責を含めると、99%以上の事案について免責が認められています。よっぽどひどいことをしていない限り、免責はなされます(私が申立てした事案で免責不許可となったことは一度もありません。)。
ですから、多少、免責不許可事由があったとしても破産をあきらめる必要はありません。
以上が破産制度の概要です。
今まで法人と法人代表者の破産申立ても行ってきましたが、「元」社長さんたちは今まで培った知識・経験・人脈を活かして破産後も立派に働かれています。
個人事業主として商売を続けている方もいらっしゃいますし、取引先の会社に雇ってもらっている方もいらっしゃいます。
そのような「元」社長さんと出会うと、破産で失うのは「財産」だけで、知識・経験・人脈などの無形資産は奪われないんだなぁとつくづく思います。