契約書の重要性について
1 契約書の意義
事業者の皆様は日々の取引の中で契約書のやりとりをすることが多いかと思います。
取引先から交付された契約書や部下が作成した契約書を適切にチェックし、また、契約書を作成するためには、まず、「なぜ、契約書を作る必要があるのか。」を理解していなければなりません。
では、なぜ契約書を作成する必要があるのでしょか。
一般的に多い誤解として「契約書を作成しないと契約が成立しない。」というものがあります。たしかに、一部の契約については法律で書面によってしなければ効力を生じないとされていますが、ほとんどの契約は意思の合致(申込みと承諾)=合意のみによって成立します。
それでは、なぜ契約書を作るのでしょうか。
それは、当事者が合意した内容を巡って紛争になった際に、合意していた内容を後で証明するためです。簡単に言ってしまえば「後でそんなことは約束していない。」と言われないために契約書を作成しているということになります。
このような契約書の意義に鑑みれば、究極的には発注書・受注書・メール・LINEのやりとりなどで当事者がどういう合意をしたのかさえしっかりと証明できるのであれば、契約書を作る必要はないということになります。
ただ、契約書は将来にある事象が発生した場合の処理について詳しく場合を分けて記しておくのに適していますので、自社にとって重要な契約についてはやはりしっかりとした契約書を作っておいた方が良い、ということになります。
それでは、早速、契約書のチェックポイントを見ていきましょう。
なお、売買契約書・賃貸借契約書・委託契約書などの各類型別の契約書のチェックポイントについては別に解説しておりますので、そちらをご覧ください。
2 契約書のチェックポイント
(1)取引先と合意した重要な約束事が明確に記載されているか
上記1のとおり、契約書の重要な意義は合意内容を証明することです。したがって、まずは取引先と合意した重要な約束事が明確に記載されているかを確認しましょう。
また、作成の観点からは、必ず重要な取り決めを漏れなく契約書に盛り込むようにしましょう。
(2)法律に反して無効となる条項はないか
契約自由の原則といって、原則として当事者は契約内容について自由に決めることができます。
これには例外があり、公序良俗(民法90条)に反する合意や労働基準法・労働契約法・消費者契約法・独占禁止法などの強行法規に反する合意は無効となります。
したがいまして、契約書にこれらの無効となる条項が記載されていないか確認し、また、無効となるような条項を盛り込まないように注意しなければなりません。
(3)適用されると不都合な任意規定を変更する条項が入っているか
これは非常に難しい専門家ではないと適切にチェックすることが難しいことなのですが、当事者が特に合意していなかった事項については、民法などの任意規定が適用されることになります。
基本的に法律の任意規定は、当事者の公平と利害関係を有する第三者の権利保護のバランスを考えて規定されていますが、具体的な取引の事情によっては、任意規定がそのまま適用されると不都合な事態が発生する場合があります。
したがいまして、契約書のチェック・作成の際には、具体的な取引の事情に照らして適用されると困る任意規定を排除する条項が記載されているかを確認しなければなりません。
(4)自社に著しく不利益な条項はないか
上記(3)に関連しますが、当事者のパワーバランスによっては、任意規定に比べて自社が著しく不利益に取り扱われる条項が盛り込まれることがあります。
当事者のパワーバランス・獲得が予想される売上によっては、ある程度のリスクテイクは必要ですが、あまりにも自社にとってハイリスクとなる条項がある場合には、できる限り、取引先に変更を求めた方が良いでしょう。
また、リスクはリスクとしてきちんと認識した上で、保険などの契約条項変更以外のリスクヘッジを講じることも検討すべきです。