製造委託契約書について

1 はじめに

製造委託契約とは、委託者が物品の材料等を受託者に供給して、自社の仕様によって製品の製造又は加工を発注し、受託者がこれに応じる契約です。これに対し、受託者が製品の材料等を用意して委託者に納める契約を「製作物供給契約」と言います。

いずれの契約にしても、受託者は相当の費用・労力を投下して指示された物品の製造・製作を行いますので、後になって「お願いしていた物と違うから作り直して欲しい。」という話になれば深刻なトラブルに発展します。

これを避けるためには、仕様を出来る限り具体化すると共に、検収基準も具体化しておかなければなりません。

それでは、さっそく製造委託契約書のポイントを見ていきましょう。

 

2 仕様

製造委託契約・製作物供給契約のいずれにおいても、仕様の認識のズレが一番トラブルになりやすい事項です。したがって、製造・製作委託する物品の仕様は、契約書に添付するか(例1)、別に明確な形で定めるようにしましょう(例2)。

いずれにしても、仕様の変更があった場合には、最終的にオーダーされた仕様がどのようなものであったのかは書面で残すようにしておかなければなりません。

例1)第○条(仕様)

    1 乙は甲に対して、別紙仕様書及び図面(以下、「本件仕様書等」という。)に基づいて本件製品を製造する。

    2 甲は、前項の仕様を変更する場合には、乙が本件製品の製造に着手するまでの間に、乙に対し、その変更内容を具体的に記した書面を送付する方法により行わなければならず、この方法によらない場合には仕様を変更することはできないものとする。

例2)第○条(仕様)

    1 甲は乙に対して、本件製品に関する仕様書及び図面(以下、「本件仕様書等」という。)を提供し、乙は、これに基づいて本件製品を製造する。

    2 例1に同じ。

 

3 支給品の取扱い

製造委託契約においては受託者が委託者の支給する材料等を使用して物品を製造するため、適切に材料等が授受されないと、受託者が過剰な材料等を保管しなければならなくなり、また、材料等の供給が少ないと納期遅れを生じさせることになります。

したがって、支給品の取扱いに関しては詳細な定めをおいて置く必要があります。但し、簡易・低額な製造委託契約であれば、下記例ほど詳細に定める必要はありません。

例)第○条(原材料等の支給)

  1 甲は乙に対して、乙が本件委託業務を遂行するのに必要な原材料等を支給する。

  2 乙は、必要とする原材料等の数量を、毎月○日までに書面によって甲に通知し、甲は、この書面の受領後○日以内に、要求された原材料等を乙に引き渡さなければならない。

  3 乙は、甲から原材料等の引渡しを受けたときは、甲に対して受領証を交付する。

  4 乙は、支給された原材料等について直ちに検査を行い、不足又は瑕疵等が存在する場合には、甲に通知するものとし、甲は乙から通知を受けたときには、速やかに追完を行う。

  5 乙は、甲から支給された原材料等について善良なる管理者の注意をもって管理し、甲の承諾なく本件製品の製造以外に使用してはならず、第三者に譲渡又は担保提供等してはならない。

  6 乙が保管する原材料等及び本件製品(製造中の仕掛品を含む。)が滅失又は毀損したときは、乙は直ちに甲に対してその旨を通知し、甲の指示に従うものとする。なお、同滅失・毀損が乙の責めに帰すべき事由によって発生した場合には、乙は甲に対して直ちに甲の被った損害を賠償しなければならない。

 

4 検収

商品納入後の行われる検収は、所有権・危険負担の移転時期・瑕疵担保責任に関係してきます。したがって、検収の方法・時期・不合格時の対応等については詳細に定めておく必要があります。

下記例では、受託者の立場から、むやみに委託者から不合格通知がなされないように不合格になるような事実がない場合には、調査費用等を委託者の負担とする旨規定していますが、委託者の立場からはこのような条項を入れないという考え方もあり得ます。

例)第○条(検収)

  1 甲は、乙による本件製品納入後○営業日以内に、本件製品が本件仕様書等の条件を満たしているか否か検査する。右検査の結果、甲は本件製品が本件仕様書等の条件を満たしていると認めた場合には、右検査期間の満了日から起算して○日以内に、その旨、乙に通知するものとし、同通知の発送により本件製品の検収は完了したものとする。

  2 甲は、前項の検査により本件製品が本件仕様書等の条件を満たしていないかった場合には、本件製品納入の日から○以内にその旨乙に通知する。

  3 乙は、前項の通知を受けた場合には、遅滞なく本件製品を調査し、本件製品が本件仕様書等の条件を満たしていないことが確認された場合には、それが甲の責めに帰すべき事由による場合を除き、遅滞なく本件製品の補修を行い、再度の甲の検査を受けなければならない。

   乙の調査の結果、甲が乙に通知した本件仕様書等に反する事実等が認められなかった場合又は本件仕様書等の条件を満たしていないことが甲の責めに帰すべき事由によると認められた場合には、甲は乙に対し本件製品の調査に要した費用その他乙の被った損害の一切を賠償しなければならない。

  4 第1項所定の通知期間内に乙が甲より何らの通知も受領しないときは、甲の検査に合格したものとみなす。

 

5 仕様変更

市場動向の変更等から一度決めた仕様を変更する必要性が生ずることは少なくありません。

この場合に、単に「仕様変更をする場合には、甲乙はその都度協議して変更内容を決する。」と定めていると、受託者は、既に加工製造機械の購入等の資本を投下しているなどの事情により、委託者からの無理な仕様変更にも応じざるを得なくなるなどの不利益を受けることがありますので、仕様変更が生じた場合の取扱いについても契約書で予め明確に定めておくことが望ましいといえるでしょう。


なお条項例では、仕様変更に伴う製品の内容、納期、委託料等の内容について協議が整わず、甲が契約を解約する場合には、それによって乙に生じた損害を賠償しなければならないとしていますが、損害賠償の範囲・額については争いになりやすいため、たとえば契約時点である程度契約が中途で解約された場合の損害額について算出できるのであれば、具体的に金額を記載して定めておいた方が良いです(たとえば、設備投資する機械の減価償却後の簿価など)。

例)第○条(仕様変更)

  1 甲又は乙は、本件製品の仕様等の内容について変更が必要と認める場合、その変更の内容、理由等を明記した書面(以下、「変更提案書」という。)を相手方に交付して、変更の提案を行うことができる。

  2 甲又は乙は、前項に基づく変更提案書を受領した場合には、当該受領の日から○日以内に協議の機会を設けなければならない。

  3 本件仕様書等の変更は、前項の協議の上、変更契約書を作成することのみによって行うことができる。

  第○条(協議不調による契約の終了)

   1 前条の協議が整わず、甲が本契約の続行を中止しようとするときは、甲は乙に対し、中止時点までに乙が遂行した業務の出来高に応じた報酬を支払い、また、次項に定める損害賠償をした上で、本業務の未了部分について本契約を解約することができる。

   2 甲は、前項により本業務の未了部分について解約しようとする場合、解約に伴い乙が出捐すべきこととなる費用その他乙に生じた損害を賠償しなければならない。

 

6 再委託

業務効率化やコスト削減の観点から再委託が行われることは少なくありませんが、委託者からすると受託者が事由に再委託することができるとすると、製品に問題が生じた場合の原因究明などの再委託先調査が困難になる危険性があります。

製品の品質管理等の観点から、委託者が受託者の再委託についてコントロールが効くようにしておくべきでしょう。

例)第○条(再委託)

乙は、本件委託業務に係る業務の全部又は一部を第三者に再委託することはできない。但し、事前に乙の書面による再委託の許可を得た場合はこの限りではない。

 

7 まとめ

製造委託契約では、予め受託者が契約の履行のために製品の製造・加工のための機械の購入など設備投資をすることがあり、委託者とトラブルになった場合に投資資本の回収が実現できないという事態が発生することがあります。

他方、委託者は、受託者に代替性がない場合に、受託者とのトラブルにより製品の製造が止まり、製品の販売を中止しなければならなくなる事態を避けなければなりません。

いずれの立場からも、上記リスクを踏まえた上で、予め発生し得る事態を想定し、当事者の取引事情等を十分に考慮した上で契約書を作成することが肝心です。

 

 

              

 

 

 

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