従業員の横領に関しての対応
「うちの社員に限ってそんなことあるはずない」「あの人はまじめで誠実な人だから」多くの経営者の方はそのように考えていると思います。しかし,実際には会社の規模に関わらず,従業員による横領トラブルというのは後を絶ちません。
本記事では,そのような従業員による横領トラブルにおける会社の取りうる対応について解説したいと思います。
横領被害にあった会社の取りうる対応
(1)刑事上の責任追及
横領被害にあった会社としては,大まかに言って,当該社員に対する民事上の責任追及と,刑事上の責任追及があります。
「横領」ときいて,まず,一般の皆様が思いつくのは刑事上の責任追及でしょう。
信じていた従業員に裏切られ,損害を被った会社の経営者が,怒りに燃え「何が何でも罰してやる」という思いに駆られることは,一般的な感覚としては,自然な反応だと思います。
刑事上の責任を追及する場合には,一般的には,警察など捜査機関に告訴状を出し,告訴を行い,処罰を求めることになります。
そして,捜査機関が捜査を行い,起訴され,刑事裁判で有罪の判決が確定すれば,当該社員は刑罰を受けることになり,場合によっては,実刑として,服役することになります。
もっとも,この刑事上の責任追及は,実質的な被害の回復には直接的にはつながりません。
当該社員の刑が確定し,服役したとしても,横領行為によって失われた金銭や利益が返ってくることはありません。国や,警察検察官が,被害にあった金銭等を回復してくれることはないのです。
加えて,刑事事件に発展することで,広く世間の知るところとなり,会社の信用に影響を及ぼすことも考えられます。
また,警察等,捜査機関の捜査に,会社としても協力をせねばならず,それにかかわるマンパワー等,有形無形のコストも無視できなくなります。
このように,横領被害にあった会社としては,刑事上の責任追及については,冷静かつ慎重な判断が実は求められるのです。
(2)民事上の責任追及
次に民事上の責任追及について解説します。
民事上の責任追及としては,当該従業員に対する損害賠償請求があります。
損害賠償請求といっても,いきなり裁判所での訴訟によるのではなく,多くの場合,まずは交渉により,被害の回復を図ります。
もっとも,多くの場合,当該従業員は金銭に窮しての横領行為に及んでいたり,遊興費として費消してしまったりしていることから,一括での弁済は困難です。
したがって,分割での支払い交渉を行うことになります。
このとき,横領被害にあった経営者としては,会社に与える影響と,信じていた従業員に裏切られた怒りから,一括での返済か,短い分割での支払いを求めたくなることでしょう。
しかし,初めから無理な返済計画を立ててしまえば,早晩,破綻をきたし,結局回収不能に陥ってしまいます。
重要なことは,現実的かつ無理のない返済計画を立てることです。
そのうえで,返済計画が決まれば,その内容を公正証書として作成しておくことが肝要といえます。
まとめ
上記のように,刑事上の責任追及にせよ,民事上の責任追及にせよ,信用な検討と現実的な判断を迫られます。経営者が日々の業務もこなしながら,このような専門的な判断を行うことは至難と言えるでしょう。
横領被害にあったうえに,その後の事後対応においても苦しむことがないためにも,横領被害にあった際には弁護士に相談されることをお勧めします。