第84回「妊娠・育休等を理由とする不利益な取扱い」

弁護士の内田です。

 新しい年になりましたね。本年もよろしくお願いいたします。

 今年の1つの目標として、下半身強化によるスリム化を挙げています。スーツがきつくなってきたからです。

 あえて「下半身」と特定しているのには理由があります。エネルギーを大きく消費し、基礎代謝量に大きな影響を与えるのが筋肉なのですが、人の筋肉は下半身に集中しています。そこで、鍛えると最も効率がよい下半身に集中して鍛えることにしたのです。

 私は「元」喫煙者で、スマートフォンのアプリを使って禁煙に成功しました。そのアプリは、「現在〇円分節約できた」「〇日分の寿命が延びた」などを「見える化」して表示してくれるアプリで、これが禁煙には効果的でした。そこで、体重計についてもスマートフォンのアプリと連携できるものを購入しました。
 「1週間前に比べて体脂肪率が〇%下がった。」というように運動の効果が見えるとモチベーションも維持しやすいです。

 運動習慣が年末で続くように今年は頑張っていきたいと思います。

 
 さて、本日のテーマは「妊娠等を理由とする不利益な取扱い」です。今回のポイントは「妊娠等」の部分ではなく、「理由とする」の部分です。

 会社が労働者に対して妊娠・育休等を理由として不利益な取扱いをすることは、男女雇用機会均等法(以下、「均等法」と言います。)第9条第3項及び育児介護休業等法(以下、「育介法」と言います。)第10条において禁止され、会社にはいわゆるこれらを防止する措置を講じる義務が課せられています(均等法第11条の3及び育介法第25条)。
 
 「育児休暇を上司に申請したら翌日解雇された。」というような分かりやすいマタハラ事案というのは少なく、実務では「妊娠(又は出産)で仕事ができないほど体調が悪いように見えないが欠勤が多すぎる。降格処分としてもよいか。」など、妊娠等を「理由として」不利益に取り扱うことになるのか、出勤状況などの業務成績を「理由として」不利益に取り扱うことになるのか、微妙な判断が求められることの方が多いといえるでしょう。

 そこで、「理由として」という部分が、裁判ではどのように認定されるのかということが問題となります。

 この点、リーディングケースとなるのは広島中央保健生協事件(最高裁平成26年10月23日判決)で、重要な行政解釈を示したものが厚生労働省の「妊娠・出産・育児休業等を契機とする不利益取扱いに係るQ&A」です。これによると、まずポイントとなるのが「時期」です。
 妊娠・出産・育児休業等(以下、「妊娠等」と言います。)の事由終了から1年以内に不利益取扱い(前述した降格など)をした場合、それは妊娠等を「契機として」なされたものと認定され、原則として「理由として」なされたものとして違法ということになります。

 では、欠勤等が多くても絶対に妊娠等から1年以内には降格処分等の不利益取扱いが許されないかというとそうではなく、いくつか例外が認められています。
 
 言葉にすると非常に長いのですが、要約すると①業務上、真にやむを得ない場合、②本人が自由意思により同意している、が例外要件となります。

 上記①は、具体的には、円滑な業務運営や人員の適正配置確保の観点などの業務上の必要性から支障があるため当該不利益取扱いを行わざるを得ない場合において、その業務上の必要性・程度が、法の趣旨に実質的に反しないものと認められるほどに当該不利益取扱いにより受ける影響の内容・程度を上回ると認められる特段の事情がある場合ということになります。

 また、上記②は本人が同意書に署名押印さえすればよいというわけではありません。具体的には、当該取扱いにより受ける有利な影響が存在し、かつ、本人が同意しており、有利な影響の方が不利な影響を上回り、当該取扱いについて事業主から適切な説明があるなど、一般的な従業員であれば当該取扱いについて同意するような合理的な理由が客観的に存在しなければなりません。

 これらの文言は長ったらしく具体的なようで実は抽象的で、結局のところ、どういった事実を主張立証すれば例外要件を満たす(≒適法となる)のかはっきり分かりません。
 ただ、一般論として、経営者でもない裁判官に「円滑な業務運営や人員の適正配置確保の観点などの業務上の必要性」を理解してもらうのは困難です。上記判例は病院の事案でしたが、病院にどのような業務上の支障が生じるのか、及びその程度が明らかでないなどと認定されて病院側が敗訴しています。

 この判例に学ぶこととしては、企業はまず例外②の同意を得る努力するべきだということと言えるでしょう。裁判になれば証明が必要になりますので、同意書には、「有利な影響」「不利な影響」「当該取扱いに至った経緯」などを詳細に記載しておくことが望まれます。

 なお、上記の基準を杓子定規に適用すると、妊娠等終了の1年以内であれば横領があっても降格等するには企業に厳しい主張立証責任が課されるというようにも読めますが、そのような極端な事案では横領の事実さえ主張立証できれば例外①を充たすと認定されるでしょう。

 まとめとして、企業は、たとえ真意は妊娠等を理由とするものではないとしても、妊娠等終了から1年以内に降格等の不利益取扱いを行う場合には、本人から上述した詳細な同意書を取り付けておく必要があります。また、それが不可能なのであれば上述の例外要件①を満たすことを証明するための主張証拠整理をしておく必要があります。

 
 いかがだったでしょうか。

 法律は往々にして抽象的・曖昧で、判例や行政解釈を合わせないと行動指針としては機能し難いところがあります。
 法律(特に刑事法)は、明確でなければならないとされています。そうでなければ、市民・企業は萎縮しながら生活しなければならなくなるからです(「悪い事をしたら、死刑とする。」という法律がもしあったら・・・と想像していただけると分かりやすいかと思います。)。

 しかしながら、我が国の法律・判例は「総合考慮」が大好きで、「結局、何に注意すればよいの?」というのが非常に分かりにくい傾向になります。
 これには良いところも悪いところもあるのですが、そのことについてはまた別の機会にお話したいと思います。

 最後に、皆様、本年もお付き合いのほどよろしくお願いいたします。

以上

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