第127回 1つの選択に2つ以上の意味を

 

 弁護士の内田です。

 

 ワールドカップが盛り上がっていますね。スポーツは観るよりやる派だったのですが、歳を重ねると怪我が怖くなってきましたので、最近、やるより観る方が多くなりました。
 サッカーは、GK、DF、MF、FWそれぞれが与えられた役割を全うして、システマティックに動くところが面白いですね。特に、フィジカルで外国勢に劣る日本が連携で勝利するのを見ると気持ちがいいです。

 ところで、ゴールを狙う場合、大体、ゴールポストの際あたりを狙いますよね。このゴールポスト際を狙うシュートには、枠外に行くリスクがある一方で、①GKが取りづらいので入りやすい、②仮にGKがボールに触れられたとしてもキャッチできずはじく可能性が高く、詰めてきた選手がこぼれ球を入れやすくなる、③ポストに当たって跳ね返ったときも同様にこぼれ球を入れやすくなる、といった複数のメリットがあります。
 「何を当たり前なことを・・・」と思われるかもしれませんが、法務の領域においても、また、日常生活においても、こうした「成功すればそれでよし。もし、失敗しても(外れても)、次のチャンスに繋がる。」という発想は大切です。


 というわけで、本日のテーマは、「1つの選択に2つ以上の意味を」です。

 どの本に書いてあったかは覚えていませんが、愚か者は常に1つの行為に1つの意味しか持たさず、賢者は常に1つの行為に2つ以上の意味を持たす、みたいなことが書いてあります。これは、正にそのとおりです。
 日常生活全般について言えることですし、法務の領域においては特にそうです。

 たとえば、パワーハラスメントを行った労働者に対する懲戒処分を例に考えてみましょう。

 詳細な解説はまた別の機会にするとして、パワーハラスメントを行った労働者に対して懲戒処分をする場合、きちんと事実を調査して事実認定を行わなければならないのですが、その際、加害者の言い分も聴取する必要があります。裁判所は、弁解の機会を与えない懲戒処分を無効と判断する傾向にあるからです。また、処分の重さも、事案に応じて相当なものとする必要があります。行為の悪質性に比べて重すぎる懲戒処分は無効と判断される傾向にあるからです。

 

 「裁判になったときに勝つため」

 

 これが加害者の言い分を聴取し、相応の処分を選択する1つ目の意味ですが、この行為には、まだ残り2つの意味があります。
 それは、「訴えられる可能性を下げる」「加害者の労働に対するモチベーションが下がるのを避ける」です。
 しっかりと調査を行い、加害者の言い分も傾聴し、会社の立場を丁寧に説明することで、加害者も「よく自分の話も聞いてくれたし、会社の立場もよく分かったから、訴えたりはしないでおこう。」という気持ちになります。パワハラ事案の場合、被害者にも落ち度があることが少なくないので、「訴訟に勝つ」という目的だけを念頭において、事実があったのかなかったのかだけしか聞かずに処分すると、加害者としては「なんで自分だけがこんな目に遭わされるんだ。」という気持ちになり、それが訴訟の可能性を高めたり、また仕事に対するモチベーションを下げたりすることになります。
 上述した他の2つの目的も意識できていると、おのずとヒアリングの質は向上し、なぜパワハラに至ったのかといった背景まで聞けるようになり、また、加害者に対して適切なフィードバックもできるようになります。

 保険をかけて常に行動する、という見方によっては、少しずる賢いやり方ではありますが、長い目で見ればリターンの安定に繋がります。
 時として、「失敗したら全ては水泡に帰す」のような行動を採ることも必要でしょうが、こうした「攻めながら守る」という発想も大切です。


 いかがだったでしょうか。

 余談ですが、私の趣味であるビリヤードでも、「的球がポケットから外れたとしても次の人が打ちにくいところに手球がいくようにする。」というテクニックがあります。保険をかけたシュートです。
 思えば、そういう意味では司法試験を受けるというのは賢い選択ではないのかもしれません。莫大な金と時間と労力をかけて合格しなかったら何も残らない(法律の知識は残りますが)、とてもハイリスクな選択です。
 今回のテーマのような考え方を前提とした場合、皆さんなら自分の子供に何を勉強するようにアドヴァイスしますか?

以上

 

 

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