第126回 カスハラ対応
弁護士の内田です。
学生の方々に講義をすることが年に数回あります。「今年もお願いします。」と頼まれると、何となく断りにくいところもあって、例年の恒例行事になっています。
学生さんを見ると、自分がまだ学生だった頃を思い出します。
司法試験受験時代の学友との勉強生活は充実したものでした。勉強はかなりハードでしたが、苦楽を共有できる友のおかげで乗り越えられました。
もう四十ですが、できれば、また数年「学生」をしたいものです。
さて、本日のテーマは、「カスハラ対応のポイント」です。ちょうど、先日、カスハラ対応の講義をしましたので、メルマガでも簡単にご紹介したいと思います。
厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」では、カスハラは、「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」と定義されていますが、実務的には、「要求」を伴わないものもカスハラとして定義して対応するべきです。たとえば、料金を間違えたレジ係に対してその場では何も要求せず、後日、SNSなどで当該レジ係の顔を撮影した写真をアップロードして「料金を間違えられた。こいつ最悪」などと書き込む行為も、何か要求しているわけではありませんが、労働者を守るという観点からはカスハラと捉えて対応するべきでしょう。
ところで、この定義を見て、どういう行為がカスハラに該当し、逆にそうでないかとすぐに判断できるでしょうか?
おそらく無理だと思います。何をもって「社会通念上不相当」と認定するのか、分からないですよね。
殴ったり「殺すぞ」と脅したり、社長を出せとか土下座しろなど、明らかに法的認められないものについては、「社会通念上不相当」と評価してよいでしょう。
では、「あんた馬鹿ね。店員のくせにそんなことも分からないの?」という言動はどうでしょうか?
この点、パワーハラスメント事案で、裁判所は、人格非難に及んでいる場合にはパワーハラスメントを認定する傾向にあるため、「馬鹿」「あほ」「無能」などの人格非難の言葉を含む言動は、原則として「社会通念上不相当」と評価してよいかと思います。
また、こうした人格非難の言葉を使用していなくても、レジ前において大声でクレームを言い続け、別室への移動も拒否する、など明らかに業務を妨害する行為も「社会通念上不相当」と認定してよいかと思います。
学校の保護者が担任に無断で授業を見に来る、自分の子の担任から外すように校長に申し込むなどの行為を行った事案で、裁判所は、不法行為に該当しないと判断して(違法ではないと判断して)、その理由の1つとして、「原告に対して人格攻撃等があったとか、原告の授業等を見学した際に授業の妨害をおこなった等の事実を認めるべき証拠はない。」と述べています。この裁判例に照らすと、人格非難や業務妨害に至っていえば、その行為は違法であって、カスハラとも認定できると推察されます。
どこからがカスハラで、どこからがそうでないか、その境界線は曖昧なところがありますが、とりあえず、1.人格非難を含んでいるか、2.業務妨害に至っているか、をメルクマールとすればよいでしょう。
カスハラの予防という面では、相談窓口の設置とマニュアルの作成(及び研修)が重要です。相談窓口がない場合、クレーマーに絡まれた労働者は相談できず一人で対応しなければならなくなり、最悪の場合、離職等に繋がります。
また、クレーマー対応は、その場での迅速・適切な対応が求められますから、予めマニュアルを作成しておいて、それに基づいて実地研修をしておくことが大切です。
昨今では、契約書・約款に「カスハラがあった場合には契約を解除します。」という趣旨の記載を設けて、いざとなったら契約を解除できるようにしている企業も見受けられます。こうした工夫も必要です。
クレーマーの対応を現場の労働者個人任せにするのではなく、組織として対応する、これが重要なポイントになります。
最後に、有事(実際にクレーマーが現れた場合)の対応です。
まず、クレームを述べている人が何に対して憤っているのか、具体的に何を要求しているのかを、しっかりと「傾聴」「共感」「質問」をもってヒアリングしましょう。概ね、この初めの聴き取りが上手く行っていないことで事態は悪化します。逆に、ここがしっかりと出来ていれば、「分かってくれたなら、もういいですよ。」となることも少なくありません。
次に、事実調査です。クレームを述べている人が主張する事実が本当にあるかどうかの調査です。カメラの映像などの客観的証拠が重要であることは言うまでもありませんが、他の従業員の目撃証言なども重要な証拠となります。
事実調査を終えた後は、どういった対応をするのかを決定します。
自社に非がある場合は、謝罪し、法的に相当な範囲で賠償等に応じます。
自社に非がない場合には、その旨を説明し、理解してもらうよう努めます。
ただ、どれだけ自社に非がないと説明しても、すべてのクレーマーが納得するわけではありません。どうしても請求を止めないクレーマーに対しては、出入禁止としたり(内容証明郵便による)、出入禁止など仮処分、債務不存在確認訴訟の提起、刑事告訴などの法的措置を採ることになります。
この法的手段を採る判断が遅れると、現場の従業員は疲弊し、離職等につながりますので、「もうこの人はお客様ではない!」と区切りをつけることが大切です。
いかがだったでしょうか。
カスハラは勿論許されないことですが、一方で、正当なクレームまでカスハラ扱いしてしまうと、それはそれで企業価値を損ねてしまいます。
「わが社にとってのカスハラとは」をしっかりと煮詰めた上で、組織的にカスハラに対応するようにしましょう。
以上








