「管理監督者」の残業代について
1 管理監督者に関する致命的な誤解
日々の法律相談の中で、「Aさんは部長で、管理監督者だから、Aさんには残業代を支払っていません。」という話をよく聴きます。
この管理監督者ですが、次の2点についての誤解がよくあります。ひとつは、「管理監督者であっても、深夜割増賃金は支払わなければならない。」ということです。一切の残業代(割増賃金)を支払わなくてもよいと誤解されている方も多いですが、深夜残業代は支払わなければなりません。そのため、当然、労働時間の管理もしなければなりません。
もっとも深刻な誤解はもう1つの点です。それは、「管理職にある人でも管理監督者に当たらないことの方がほとんどである。」ということです。部長・課長といった肩書があるというだけで管理監督者扱いにして残業代を支払っていないケースは後を絶ちません。
この頁では、法律上の「管理監督者」(労働基準法第41条2号)について、これに該当するための要件と、もし該当しないと判断された場合のリスクについてお話します。
2 管理監督者とは
管理監督者は、労働基準法第41条2号において、以下のとおり定義されています。
事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
これだけ見ると、管理職にある者については、管理監督署として取り扱ってもよいかのように思えます。
しかし、裁判例上、この管理監督者については、①職務・責任からみた使用者との一体性が認められること、②勤務時間の裁量性が認められていること、③賃金等でその地位にふさわしい待遇を受けていること、の3点を考慮して判断されるということになっています。
そして、実際には、これらのうち1つでも欠けていると管理監督者と認められないことが多いです。
以下では、もう少し上記①~③の考慮要素を詳しくみていきます。
①職務・責任からみた使用者との一体性が認められること
まず、①ですが、裁判例を分析すると、経営や人事に関する重要な権限を与えられていない場合には、この①は認められない傾向にあります。
②勤務時間の裁量性が認められていること
また、②については、常に決まった時間に出勤させられているとか、遅刻・欠勤を理由に賃金カットがなされている場合には、この②は認められない傾向にあります。
③賃金等でその地位にふさわしい待遇を受けていること
最後に、分かりにくい③ですが、職務の内容によりますので、一律に「このぐらいの賃金を支払っていればOK」ということはできません。実際の残業時間がどの程度あったのか(月の残業が100時間など長時間に及んでいる場合、「ふさわしい待遇」といえる金額は高額になりますし、逆も然りです。)、他の従業員はどの程度の賃金をもらっているのか(年収1500万円をもらっていても、他の管理監督者ではない従業員が年収2000万円なら「ふさわしい待遇」とはいえないでしょう。)、などによるからです。
裁判例では、年収470・700万円程度の水準では「ふさわしい待遇」とはいえないと判断したものもありますが、年収540・640万円程度の水準でも「ふさわしい待遇」と認めたものもあります。
より分析的にみると、「管理監督者扱いではない従業員が当該会社(業務)のおける平均的な残業時間分の残業をした場合に、管理監督者扱いされている者の賃金の方が勝るか」、が重視されているようです。
たとえば、管理監督者じゃないAさん(但し、Bさんに近い職位とします。)の所定年収が600万円、管理監督者とされているBさんの所定年収が700万円、平均的な年残業時間は480時間だとします。Aさんの1時間当たりの残業代を3750円とした場合、Aさんの年残業代は180万円になります。そうすると、Aさんの実年収は780万円となり、残業代のないBさんの年収を超えます。こうなってくると、「ふさわしい待遇」になっていないと考えるわけです。
3 管理監督者とは認められなかった場合
裁判で管理監督者性が認められなかった場合、当然、残業代を支払わなければなりません。賃金債権の消滅時効は3年ですから、今後は、最大で3年分遡って残業代を支払うリスクを負うことになります。
上記のAさんを管理監督者扱いにして残業代を払っていなかったとすれば、180万円×3年=540万円を遡って支払うことになります。これに遅延損害金(場合によっては付加金)が付きますから、会社にとっては大きなダメージになります。
安易に管理監督者扱いにしないように注意した方がよいといえるでしょう。
※ 本記事では「残業代」という言葉を使用していますが、法律的には「割増賃金」というのが正しいです。