第51回メルマガ記事「債権回収には法的限界について」2020.4.23
新型コロナウィルスの拡大は未だ終息しない様子で、今のこの状況がいつまで続くのか非常に不安のあるところです。
政府は、休業により資金繰りに困る事業者、休業により賃金の減少する個人など、新型コロナウィルス拡大により深刻な影響を受ける国民に対する救済として、給付金の支給、公的融資制度の整備等の措置を講じていますが、これを考慮しても国民が受ける私生活上のダメージは深いものとなるでしょう。
最近では、当法人においても新型コロナウィルス関連の相談が増えています。最近あった質問として、「破産手続中ですが、政府から支給される10万円は受け取ることができるのでしょうか。」というものがありました。
これについては、現時点で明確な答えはありません。そもそも、破産法は、このような給付を想定して立法されていませんから、同法の解釈によって結論を導くほかないのです(なお、私見としては、年金等と同じく本来的自由財産として「受け取れる。」という結論になるのではないかと考えています。)。
今の自粛要請が続けば、いたるところで「不払い」が生じることになるでしょう。そうすると、債権者の債務者に対する「債権回収」行為が頻発することになります。新型コロナウィルス拡大により経済的打撃を受けた者同士の争いとなり、熾烈な争いとなることが予想されます。
しかし、債権回収には法的限界があります。
今回は、この「債権回収の法的限界」についてお話しようと思います。
まず、当然ですが、殴る蹴るなどの暴行を加えて弁済を迫るなど犯罪に該当する行為は許されません。
「当たり前だ。」と思われるかもしれませんが、言葉が過ぎて「脅迫」「恐喝」と認定されてしまった・・・ということは聞かなくもないので注意が必要です。
一般的に「不払い」があった場合には、特段の担保権がない限り、(保全処分(仮差押え等))⇒訴訟等⇒判決等の債務名義(強制執行が可能になる書面、と理解していただいて差し支えありません。)の取得⇒強制執行(差押え等)という流れで強制的に債務者に支払いを行わせることになります。
たとえば、AさんがBさんに借金1000万円を支払わなかった場合に、BさんがAさんの自宅を仮差押えした後に訴訟提起し、「AはBに金1000万円を支払え。」という判決を取得して、当該判決に基づいてAさんの自宅を競売にかけ、買受代金から1000万円を回収する、という具合です。
一方、担保権がある場合には、当該担保権を実行して支払いを強制するということになります。上記の例でBさんがAさんの自宅に抵当権を設定していた場合には、抵当権を実行してAさんの自宅を競売にかけ、買受代金から1000万円を回収するという具合です。
法的債権回収の流れの上記のとおりですから、当然、債務者に財産がなければ債権は回収できません。
なお、証拠はしっかりと揃っていて訴訟をすればほぼ100%勝てるという事案では、相手に財産がない(「無資力」と言います。)ことが非常に多いです。このような場合、「他に請求できる先はないか。」を検討します。
相手に財産はある、債務名義も取得した、相手の財産も分かっている、こういう状況でも債権回収できないことがあります。
法律的には「差押えられない財産」があるのです。
代表的なものは「年金」「生活保護費」といった生活のために必要不可欠な財産です。同様に、債務者の通常の生活を確保するという観点から「給与」についても原則として手取額の4分の1までしか差押えられないことになっています。
破産法においても、生活に必要不可欠な物などは換価対象外とされており、破産者は破産しても生活必需品や仕事道具は失いません。
このようにみていくと、法は、債権者の債権回収よりも、債務者の最低限の生活を優先的に保護しているということもできるでしょう。
以上のとおり、法的債権回収は相手の資力によって限界づけられます。「債権回収ができない」という事態は必ず起こり得るのです。
「不払いが起きたときにどうするか」という有事対応もさることながら、「不払いが起きても致命傷を負わないためにはどうするか」という平時の与信管理が大切です。
最後に、1日も早く新型コロナウィルス拡大が終息することを願います。
以上