第129回 「物」の損害賠償に関する基本的な考え方

 

 

 弁護士の内田です。

 

 

 仕事(パソコン打ち)をしていると自然と背中が曲がって猫背になります。あと、足組みですね。これらが癖になっていて、健康的ではないので改善したいのですが、中々治りません。

 何度か椅子の上に置く腰を固定するやつ(正式名不明)を使ってみましたが、何分かすると猫背に戻ってしまっています。

 

 背筋をつけろ、などと聞いたことがありますが、筋肉が付けば是正されるものなのでしょうか。いずれにしても、色々と試してみようと思います。

 

 

 さて、本日のテーマは「物の損害賠償に関する基本的な考え方」です。

 

 借りた物を不注意で壊してしまった、交通事故で相手の車を壊してしまった、などのように、故意又は過失により他者の物を壊してしまった人は、その所有者に損害賠償しなければなりません。

 では、物の賠償はどういう実務になっているのでしょうか。

 

 まず、押さえたいのが民法第415条で、通常損害(その債務不履行があったら通常生ずるであろうと考えられる損害)が原則で特別損害(通常損害とはいえない、特別の事情によって発生した損害)が例外です。

 ここでは、通常損害としての物の賠償についてお話します。

 

 よく、物を壊された、盗まれた、などと主張される方は、「新品を買いなおすためお金を払ってもらえる。」と思っていることが多いですが、残念ながらそうはなっていません。法律的には、同種同等のものを市場で取得するのに必要な費用を請求できるに過ぎません。これを「再調達費用」と言います。

 たとえば、私はiPhone11ProMaxを使っていますが、これを壊されたからといって最新のiPhone17を買う金を払え、とはいえないのです。インターネットで見ると私の機種が3万5000円程度で売っていました。なので、私が加害者に損害賠償請求できるのは3万5000円程度となります。

 

 先ほど、「壊された」と言いましたが、壊され加減でも処理は異なってきます。たとえば、一部分が壊れたにとどまり1万円で修理ができる場合は、買い替え費用である3万5000円ではなく修理費の1万円しか請求できません。他方、修理には5万円がかかるという場合には、このスマホの再調達費用である3万5000円までしか請求できません。修理費>当該物の再調達費用(時価)の場合を「経済的全損」と言います。

 

 スマホの例でお話しましたが、特に交通事故の世界で、この「経済的全損」か否かということは争いになります。本当に修理費はそんなにかかるのか、その車は本当にそんな高いお金を払わないと手に入らないのか、など価格の評価が争いになるのです。

 特に、改造車だったりすると、中古市場で出回っていないため、時価の認定がとても難しくなります。

 

 ここまで聞いて、「再調達費用さえ賠償すれば済むのか?それは加害者に甘いのでは?」と思われる方もいらっしゃるでしょう。実際には、これに弁護士費用(実際にかかった額では裁判所が認定した賠償額の10%)や遅延損害金(年3%)が乗りますが、微々たるものです。刑事上は、器物損壊罪になりますが(但し、故意(わざと)があるときにしか成立しません。)、軽い罪なので前科前歴のない人がいきなり実刑になるような話にはなりません。

 物の賠償請求は金額がそれほど高くならないこともあって、弁護士費用や訴訟の労力を考えると泣き寝入りせざるを得ない場合も少なからずあります。こうした現状を踏まえて、法改正に期待するところですが、中々すぐには変わらないでしょう。

 

 現実的な対応としては、そもそも壊されたり、盗まれたり、ということがないように監視カメラを設置するなど抑止を働かせることです。そもそも、物を壊したり、盗んだりする人は、資力に乏しいことが多く、上述した再調達費用すら回収できないことも多いです。したがって、「被害に遭わないこと」が最も重要になるのです。

 

 

 いかがだったでしょうか。

 

 

 今回は、低額と言われる我が国の損害賠償実務の中において、特に低額となっている物の賠償についてお話しました。

 弁護士や裁判官といった法曹は、当たり前のように「過去の裁判例に照らすと、このくらいが妥当だ。」という方向で話を進めます。しかし、昭和や平成前半といったかなり昔と今とでは物価も異なりますし、国民の生活環境も変わってきています。弁護士は、こうした事情も踏まえて、「先例はこうだけど、現代ではこうするべきだ。」というのをもっと主張していった方がよいのかもしれません。

 

以上

 

 

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