建物退去交渉において、未払家賃と修繕費償還請求権を相殺した事案
事案の概要
依頼者は、事業者として数十年前から建物を賃貸していたところ、賃貸人が急に行方不明となり、連絡が取れなくなった。
当該建物は老朽化が著しく、雨漏り等が発生していたが、賃貸人が行方不明で連絡が取れないので、やむを得ず、自ら多額の費用を支出して修繕を行った。依頼者は、賃貸人であるにもかかわらず、当該建物を放置していなくなった賃貸人に対して家賃を支払うことに納得ができなくなり、家賃の支払いをやめた。
そうしたところ、賃貸人の親族を名乗る人物から契約を解除するから退去せよという連絡があり、賃貸人が某病院に入院していることが分かった。
依頼者は、今まで何の音沙汰もなかったのに急に建物を退去するよう請求されたことに納得することができず、弁護士に相談した。
解決までの経緯
弁護士が介入し、相手方に対し、賃貸人には賃借人に使用収益させる義務があり、その義務の履行として雨漏りなどを修繕する義務があること、賃借人が賃貸人に代わって修繕費用を支出した場合にはその修繕費用を請求する権利があること、修繕費用の請求権と家賃の請求権とを相殺することなどを伝えた。
そうしたところ、相手方は、そもそも修繕の必要性がなかった、修繕の必要性があったとしても修繕費用が高すぎて相当ではない、などと主張して、あくまで依頼者に対して契約解除を前提として退去を求めた。
弁護士と相手方との間で、修繕の必要性・相当性について争いのない部分を確定するなど交渉を行っていたが、結局、依頼者の意向もあり、双方が未払家賃・修繕費を請求せず、依頼者が退去までの数カ月分の家賃として数万円を支払って退去する旨の和解が成立した。
弁護士の目
賃貸人には賃借人に使用収益させる義務があり、賃貸人が賃貸物件を適正に管理しないことにより賃借人との間でトラブルになることがあります。この場合、賃借人としては、きちんと賃貸人が自らの義務を果たさないのになぜ家賃を支払わなければならないんだということで、家賃を支払わないというケースがあります。
もっとも、本件のように、修繕費償還請求権と賃料請求権を相殺しようとする場合、家賃は一定額で争いが生じにくいのに対して、修繕費については、そもそも修繕する必要があったのか、修繕のために支出した費用は妥当だったのか(相当性)、などが争いになりやすく、権利として非常に不確定で、なかなか話し合いによる解決が難しい面があります。
もし、賃借人の方で修繕費を支出する場合には、事前に賃貸人とよく協議して、賃貸人の同意を取り付けてから修繕することをお勧めします。
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