第2回メルマガ記事「残業代シリーズ②」 2017.8.10号
こんにちは。
今回は、前回「残業代と働き方改革①」の続きになります。残業代を抑制するために法的使える制度の解説です。
本題に入る前に、当法人本店では、全ての弁護士・事務局が「マーケティングPT」「顧客満足度向上(CS)PT」「従業員満足度向上(ES)PT」のいずれかに所属しています。
私は、「マーケティングPT」所属です。
今回の記事を書いていて、ふと「生産性の向上による労働時間の削減」はどのPTで取り扱うべき課題なのだろうかと思いました。
長時間労働の削減により従業員の負担が軽減すると考えるとESPTのような気もしますし、無駄な事務が削減される結果として顧客に当てられる時間が増加すると考えるとCSPTのような気もします。
このように考えていくと、生産性の向上による労働時間の短縮は、会社にとっても顧客にとっても従業員にとっても有益なことで、全社的課題として取り組む価値のある課題といえるかもしれません。
さて、それでは本題に入っていき
たいと思います。
1 残業代抑制に効く法制度
残業代の抑制に効きそうな法制度を列挙すると以下のとおりです。
- 変形労働時間制
- みなし労働時間制
- 裁量労働時間制
- みなし残業代制
- 残業許可制
いずれの制度を導入するに当たっても、通常は、就業規則・給与規程等の
変更を行うことになります(ケースにより、労使協定や変更同意書の取り付
けを要する場合もあります)。
変形労働時間制は、1週間、1月、1年の単位で繁閑の差が激しい場合に
有効な制度です。
一定の期間を平均して労働時間を計算して残業代を計算することになるの
で、たとえば、月初は仕事が少ないので労働時間を短くして、月末は仕事が
多いので残業してもらい、月初と月末の労働時間を平均して法定時間外労働
がなければ残業代を支払わないということが可能になります。
みなし労働時間制は、営業マンなど会社が労働時間を把握し難い場合に、
一定時間働いたものとみなす制度です。
ただ、この制度には難点があります。
それは、スマホやPCの普及により、裁判所はなかなか「労働時間を算定す
ることが困難」と認めてくれないということです。
裁量労働制は、私のような弁護士や研究開発職の方、事業の運営に関して企画・立案等を行う方など、業務の性質上その遂行方法を労働者の裁量に委ねる必要がある者について、労使協定などで定めた時間を労働時間とみなす制度です。
実際に、労働時間について大幅な裁量を与えている従業員さんがいるのであれば、積極的に活用したい制度です。
みなし残業代制度とは、実際の残業(法定時間外労働)にかかわらず、一
定の残業代を支払う制度です。
従業員からすれば、残業しようとしまいと一定の残業代が支払われるので、定時までに仕事を終わらせようとするインセンティブを働かせることができます。
なお、この制度を導入するに当たってはみなし残業代制度が有効となるための要件についてしっかりとした理解が必要になるため、予め弁護士などの専門家に相談することをお勧めいたします。
最後に残業許可制とは、残業をする場合には、会社の許可を要することにする制度です。
判例上、会社が明示的に残業を禁止しているにもかかわらず労働者がそれを無視して労働しても、会社はその労働を受領する義務はないとされており、要するに、会社は許可を得ないでなされた残業に対して割増賃金(残業代)を支払わなくてもよくなります。
但し、労働者が会社の許可を得ずに残業をしているのを黙認していた場合には、黙示の許可があったと認定されて、やはり残業代を支払わなければならなくなります。
ですから、この制度を採用する場合、許可を得ずに残業をしている従業員又は残業をした従業員に対しては、その都度、会社からメールなど記録に残る形で注意をしておかなければなりません。
以上、ざっと法制度をご紹介しましたが、私が個人的にお勧めするのは⑤の残業許可制です。
理由としては、「残業はお金にならない。」「残業自体をプラスには評価しない。」という会社のメッセージを従業員にはっきりと伝えることがで
き、また、制度としてもシンプルで分かりやすいからです。
しかし、この制度を導入するだけでは不十分です。単にこの制度を導入するだけでは、従業員は残った仕事を明日に先送りして帰宅するだけです。
この制度を真に活用するためには、前回ご紹介したように、会社から従業員に対して積極的に生産性向上のインセンティブを与えていかなければなりません。
次回では、具体的な残業許可制の導入方法について解説します。
<あとがき>
残業代の抑制について解説を続けているところですが、「では、ラグーンさんはどんな工夫をしているの?」と言われると、特に工夫はしていません。
普通に労働時間を計算して、法定労働時間外の労働に対しては割増賃金を支払っています。
なぜかと言われると中々難しいのですが、まず、そもそも事務局にそれほど時間外労働がありません。
また、弁護士サイドは、事務局に対して十分生産性を意識して働いてくれていると思っています。ですから、事務局に発生した時間外労働は本当に必要不可欠なものであったと理解しています。
ですので、あまり時間外労働に対して割増賃金を支払うのに心理的抵抗がないのではないかと思います。
勿論、時間外労働がないに越したことはないので、日々、業務の効率化・生産性向上に取り組んでいます。
皆様の会社でも、残業代を支払っていることについて特に問題になっていないのであれば、その理由は当法人と同じなのかもしれませんね。
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