第5回メルマガ記事「解雇シリーズ②」 2017.9.28号
弁護士の内田です。
私の購読している日経ビジネスで、SOMPOホールディングスが介護業界に参入して成功を収めているという記事がありました。
我が国の人口動態からすれば、介護業界は「熱い」市場です。しかし、それはどの企業も認識しているところで、競争も激しいです。
一般に、慣れない本業以外の分野への進出はリスクが高く、また、それほど儲かっているとは思えない会社が本業以外の分野へ進出すると「あの会社は本業が上手く行っていないので一種の博打に出たのでは?」という信用不安を引き起こす危険性もあります。
「慣れない」という点について、既にその業界で実績を上げている会社を買収することによってある
程度クリアすることができます。
SOMPOホールディングスも大手介護事業会社を買収して介護業界に参入しています。
また、信用不安の点も、SOMPOホールディングスのような潤沢な資金がある会社だと発生しないことが多いです。
いずれにしても、本業以外の分野への新規参入は慎重でなければなりませんね。
さて、全く今回のテーマと関係のない前置きが長くなりましたが、前回に引き続き、解雇について解説していきます。
前回は、解雇の総論的な部分についてお話ししました。今回は、各論的なところ・・・各類型について解雇がどのような場合に有効と認められているのかについて裁判例の傾向を見ていきましょう。
なお、裁判所は、解雇の有効性判断に当たっては、①解雇の目的が合理的か否か(不当目的はないか)、②手続は適正であったか、③非違行為の重大性の程度に照らして行き過ぎた処分になっていないか、④他の処分状況と均衡がとれているか、などを考慮しています。
1 横領
一般的傾向として、横領に対しては、その金額の多寡にかかわらず解雇が有効と判断される傾向があります。
たとえば、バス運転手がバス料金3800円を横領した事案で解雇が有効と判断されています。
2 セクシャルハラスメント
一般的傾向として、強制わいせつのような犯罪に当たる行為がある場合には、解雇は有効と判断される傾向にありますが、それに至らない場合には、注意しても再三セクハラを繰り返していたなどの付加的事情がないと、即解雇は有効と認められない傾向にあります。
たとえば、キスをして胸を触るなどの強制わいせつ行為に及んでいる場合には、解雇が有効と認められる傾向にありますが、卑猥なことを言う、デートに誘う、手を握るなどにとどまる場合には、他に、注意されても繰り返している、セクハラ被害を訴えた者に報復している、などの事情もない限り、解雇は行き過ぎとして無効と判断される傾向にあります。
3 私生活上の非行
会社には、従業員の私生活にまで立ち入る権利はありませんので、原則として私生活上の非行を理由として解雇することはできませんが、当該私生活上の非行が会社の社会的評価や円滑な業務遂行に支障を生じさせるような場合には、解雇が認められる場合があります。
飲酒運転を例にとると、裁判所は、運送業を営む会社の従業員に対する解雇は有効と判断する傾向にありますが、運送業以外の業種では、注意されても繰り返している、被害者が死亡するなど結果が重大などの事情もなければ、即解雇は行き過ぎとして無効と判断する傾向にあります。
以上が裁判例の傾向です。
実際には、解雇を検討する際に、実際のケースに一番近い裁判例を探して「当たり」をつけることになります。この判断は中々難しいので、弁護士に相談した方が無難です。
次に、手続面について解説します。この適正手続は極めて重要なポイントであるにもかかわらず、この点がおろそかになっているケースが多いです。
適正手続とは、簡単に言ってしまえば、きちんと事実を調査して事実を認定し、従業員に弁解の機会を与えるということです。
たとえば、セクハラ事案で、被害者以外からのヒアリングを行ったり、メールやLINEなどの調査をせず、また、セクハラをしたとされている従業員の言い分も聴かずに解雇すれば、「セクハラを認める証拠はないので解雇は無効」「適正手続が履践されたとはいえないので解雇は無効」ということになりかねません。
では、会社が解雇を検討する際には、どのような対策を講じれば良いのでしょうか。
1つの目のポイントは、「不適切な行為があったらその都度、始末書などを書かせて証拠化しておく。」ということです。
裁判所は、「会社も今までちゃんと注意していなかったでしょ。」「会社が指導すれば業務能力の改善可能性がないとはいえないでしょ。」という理由で解雇を無効とする傾向にあるので、会社としては、きちんと「何度注意しても非違行為を繰り返している」「何度も指導しているが改善の兆しもないので改善可能性はない」と証明できるようにしておく必要があるということです。
また、事実調査の結果も証拠化しておくべきです。
2つ目のポイントは、「原則として処分は軽いものから課していく」ということです。
裁判所は、「即解雇は行き過ぎでしょう」という理由で解雇を無効とする傾向にあるので、会社としては、「過去に何度も注意してそのたびに制裁を課してきました。けど、また今回もやったんです。」と言えるようにしておく必要があるということです。
通常、戒告→減給→出勤停止→解雇という順番に処分は重たくなっていきます。
以上、全2回にわたって「解雇」について解説してきました。
あまり解雇をする機会はないかと思いますが、実際に解雇をするとなるとかなり綿密にその準備をしていかなければなりません。
「今日決めて明日解雇」というのは、通常、あり得ないことなのです。
解雇の準備をしっかりやっておけば、退職勧奨が功を奏する可能性も高くなります(99%裁判になっても勝てる!というところまで準備できたと思っても、訴訟リスクが0ということはないので、まずは退職勧奨を行ってみるべきです)。
<あとがき>
解雇・退職勧奨は、する方もされる方も辛いものです。出来ることならやりたくないというのが多くの人が思うところではないでしょうか。
しかしながら、問題社員を漫然と在籍させ続けることにはリスクを伴います。
成果に貢献しない労働に対して賃金を払い続けなければならないというのみならず、頑張って成果に貢献している他の従業員の迷惑になる可能性がありますし、待遇に大差がなければ「なんで自分がこんなに頑張っているのにあの人と同じ給与な
のだろう。」とモチベーションの低下にもつながります。
「会社としてやれることはやってあげた。でも、どうしても駄目だ。」という段階に至れば、最後は誰かが退職手続への舵を切らなければなりません。
精神的にも辛いことですし、法律的にも難しい問題がありますから、悩まれたときにはお早めに弁護士に相談してください。
それでは、また再来週に本メルマガでお会いしましょう。
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