第17回メルマガ記事「企業様と交通事故が関連する法的問題②」 2018.3.22号
前回に引き続き、②従業員の職務従事中の交通事故に関してお話したいと思います。
まずは、会社の間接損害・反射損害です。
間接損害には難しい議論がなされている問題でもあるため単純化してお伝えすると、間接損害とは従業員が交通事故に遭い、直接の被害を受けた者が会社ではないけれども、それにより会社にも間接的に被害が生じた場合です。例えば、ある業務を行わせようと考え雇用した従業員が交通事故に遭い働けなくなったため、他の労働者を雇ったり、外注したりして余分に費用がかかった場合です。
この問題については、被害者である従業員と会社との間に経済的一体性を有する場合にのみ損害賠償請求が認められるとされています。例えば、個人事業主であったり、代表者が出資している会社などがあたります。株式会社のように株主が出資をして役員が株主から委任をうけている場合には、役員が交通事故の被害にあったとしても会社との経済的一体性は認められないので、そのような会社は間接損害を請求することができないということになります。難しい話になってしまったのでこれ以上の説明は避けますが、間接損害を請求することは容易ではないということになります。
加えて、裁判所の立場は、企業経営者は従業員が災害に遭っても営業に支障がないようにあらかじめ対応策を講じておくべきという立場をとっているようにみえます。したがって、会社経営者は、従業員が交通事故に遭った場合に会社に営業損失が生じないよう対策を講じておくことが必要です。具体的にどのような対応策をとるかは、会社の業態、規模、従業員数などを総合的に考慮することになり一般的な正解がないため、ここでは具体的なアドバイスは控えさせて頂きます。
反射損害は、「本来従業員自身が加害者に請求できる損害を企業が肩代わり等した場合」(『交通賠償実務の最前線』(公益財団法人日弁連交通事故相談センター著))をいいます。例えば、従業員が交通事故に遭い、従業員が給与に見合う働きをしていない場合であっても給与の補填を行った場合や治療費などを立て替えた場合などがこれにあたります。この場合に会社が交通事故加害者に対して損害賠償請求を行う場合には従業員が請求する場合と実質的に同じ内容となるため一般的に請求が認められる傾向にあります。
しかし、ここで問題なのは、会社が立て替えた金額の全額が加害者から支払われるとは限らないという点です。法的に認められる損害を補填したのであれば加害者から弁済をうけることができる場合がほとんどですが、法的に認められない損害を補填してしまえば、会社が従業員に返還を求めるか、会社が負担するかということになります。
この場合、会社と従業員がトラブルになることもあるし、会社に無駄な損失を生じさせる場合もありますので、従業員のために加害者に代わって損害を補填する場合には注意が必要です。
3これまでの私の話は難しい話になってしまったかもしれませんが、なぜこのような話を散々したかというと、事前に問題点を把握しておけば後の法的紛争を回避することができ、結果として弁護士費用や営業損失をリスクヘッジすることができ、法務コストを抑えられるということを伝えたかったからです。
単に従業員が交通事故に遭ったという一つの事実から様々な問題が生じることをご理解頂けたのでないかと思います。
従業員の交通事故と聞くと、従業員個人の問題だけで会社は関係ないという経営者の方が一定数おられますが、法的問題へと発展しかねない問題に気づかず、気づいていても放置するのは非常に危険といえます。
そんなときに便利なのが弁護士です。弁護士は法的問題が発生した後に解決へ導くことも仕事のうちですが、法的問題が発生する前から「後にどのような問題が発生するか」、「発生した場合にどのような対策をとるのか」を事前に予測し対応をとるようアドバイスをすることも仕事の一つです。
弁護士に依頼をするか否かはさておき、交通事故によって現在や将来において、会社の不利益となる問題はないかを事前に把握するためにもまずは弁護士に相談をすることをお勧めします。
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