第13回メルマガ記事「採用内定について」 2018.1.23号
弁護士の長船友紀です。
今週は、寒くなりましたね。東京の大雪を見ていると、北海道に住んでいた学生時代のことを思い出します。私は、北海道教育大学旭川校に通っていたのですが、旭川は、北海道の中でも極寒地域でして、マイナス20度になることもあります。銭湯に行った帰りに少し外に出ると、髪の毛が凍りますし、凍結した道路でスリップした経験も数えきれません。北海道で数年過ごした私であれば、下関の冬はへっちゃらだろうと思われるかもしれませんが、下関の冬は風が強いので、体感温度が低く、すごく寒く感じます。
ともあれ、インフルエンザも流行の兆しがみえるようですし、皆様もどうかお体にお気を付け下さい。
それでは、前回の「試用期間」に引き続き、今回は、「採用内定」を取り上げてみようと思います。
皆様は、採用内定取消しを行ったことはありますか?まだ、採用内定取消しを行ったことがない企業様でも、前回の試用期間同様、採用内定取消しは、自由に行えると思っていませんか?
採用内定の法的性格について、最高裁判所は、労働契約成立説を採用しています。つまり、採用内定によって、労働契約そのものが成立すると考えているのです。このような考え方には、採用内定自体が当事者間に労働契約関係をもたらすものではないとすれば、採用内定者が不安定な立場に置かれるという背景があります。
ここで、もう少し掘り下げてみますと、契約は、申込みと承諾によって成立します(一部契約では、書面が必要とされます。)。
そして、①会社による労働者の募集は、申込みの誘引にあたり、②労働者がこれに応募することが労働契約の申込みであり、③採用内定の通知が申込みに対する承諾となり、学生からの誓約書提出とあいまって労働契約が成立することになります。
最高裁によれば、こうして成立する労働契約は、入社日を始期とするものであり、かつ一定の解約権が留保されていると考えています。
このような前提に立てば、採用内定によって労働契約が成立する以上、使用者がそれを取り消すことは労働契約の解約にあたり、内定に際して留保した解約権の行使によることになります。
この点、最高裁判所は、「採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる。」と判断しています。
具体的には、内定者が学校を卒業できない場合や健康を著しく害したような場合には、採用内定取消が有効であると判断されることになろうかと思います。
裁判例では、公安条例違反の現行犯として逮捕され、起訴猶予処分を受けたことが発覚したためになされた採用内定取消が有効とされています(近畿電通局事件)。
それに対して、採用内定当初から陰気な印象で従業員に不適格であると思いながら、これを打ち消す材料が出るかもしれないとして採用を内定したが、後にこの印象を打ち消す材料が出なかったことを理由に行った内定取消は無効とされました(大日本印刷事件)。
以上の通り、内定取消は、使用者の思い通りにできるわけではないものの、本採用後の通常の解雇と全く同視することはできず、内定取消に関する使用者の裁量判断は、通常の解雇の場合よりも広く認められることになります。
しかし、いずれにしろ、内定取消は、後で、従業員さんから争われる可能性も秘めていますので、ご決断される前に、一度、ご相談いただければと思います。
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