第14回メルマガ記事「債権回収①」 2018.2.8号
弁護士法人ラグーンの仁井です。
2018年がスタートして早1か月が経過しました。
2月には平昌オリンピック、6月にはサッカーのワールドカップが開幕します。
日本代表の素晴らしい活躍を期待したいですね。スポーツ好きな私としては、上期は寝不足の日々が続きそうです…。
さて、この1か月、連日テレビニュースをにぎわせた話題といえば「はれのひ」騒動ではないでしょうか。成人式という一生に一度の大切な日を台無しにされた被害者の方々の胸中察するに余りあるところです。
会社の破産手続開始が発表されましたが、負債総額からしてもかなりの取引先数があったと思われます。これらの取引先からすれば「倒産?冗談じゃない。うちの分だけでも早く払ってくれないと困る!」というのが本音でしょう。
しかし、無い袖は振れません。「金が無いなら物を回収させてもらう」と無理やり現物で回収しようものなら場合によっては窃盗罪として処罰されるリスクすらありえます。まさに踏んだり蹴ったりという最悪の事態です。あくまで合法的にお金を回収しなければなりません。
では、どのような対応をとるべきでしょうか。今回と次回のメルマガでは、「債権回収」というテーマで、債権回収の難しさと企業がとるべき対応についてお話ししたいと思います。
例えば、取引先に支払遅滞が発生したとします。債権回収が必要になりました。通常は「どうなってますか?」と担当者から取引先へ連絡をして状況を把握しつつ催促します。
それでも支払いがされない…。今度は、書面で請求書や督促状を送ります。ここまではよくある光景の一つです。
その後も、やはり支払いはされません。催促をしても、「来週までには」「月末までには」等の返答です。金額がそれほど高額でなければ、損金計上して終わりということもあるかもしれません。しかし、金額がそれなりに高額であったり、その他にも事情があったりすれば、次のステップへ進むことになります。
次に考えられる選択肢は法的な手続です。担保があれば別ですが、通常は取引先を相手に裁判を起こすことになります。裁判になると、一般的に会社の手を離れ弁護士へ依頼するケースが多くなると思います。
裁判では、通常、1か月に1回くらいの頻度で、こちらの主張、相手の主張を繰り返し、数か月から1年くらいの月日をかけることになります。「支払できない相手に反論の余地などあるわけない!」と思われるかもしれませんが、意外なことに多くの事案では(法的に意味のある主張であるかは別ですが…)想定外の反論が次々と繰り出されることになるのです。
そんなにかかるのか…と思われるでしょうが、本当に難しいのはここからです。勝訴判決が出たとして、相手はすぐにお金を払ってくれるでしょうか。すぐに払えるのであれば裁判前に払っているはずですね。判決が出ても相手は払わない(払えない)というケースは意外に多くあります。
勝訴判決はそれだけでは紙切れにすぎません。相手が払わなければ、強制執行という手続を別にとる必要があります。例えば、相手の預金や売掛債権を差押える、不動産の競売を申立てる等して、無理やりお金を回収する手続きです。
意外と勘違いされるケースが多いのですが、勝訴判決が出ればそれだけで速やかにお金が支払われるわけでなければ、取引先の資産状況が明らかになって強制執行の手続きがスムーズに行くというわけでもありません。あくまで、強制執行の手続きをとる側が、その対象となる資産を探し当て特定(〇〇銀行〇〇支店の普通預金等)しなければなりません。
これが本当に大変な作業です。資産があると思っていたのに無いというように空振りするケースもあります。あえて計画的に資産を隠匿する悪質なケースもあり、過去には、代表者名義の不動産が支払停止の数か月前に、財産分与の名目で代表者の元妻名義に移転されていたというケースもありました。
このような実情からすれば、支払停止になった後の債権回収に賭けることがあまり良い選択肢とは言えないことは明らかですね。
取引先の支払停止や倒産のリスクはどの企業にもあります。企業活動が取引先との関係で成り立っている以上、避けることはできません。避けることができないからこそ、いかに自社の被害を最小限にするかという視点が重要になります。予防法務と言われる視点です。日々の業務に追われ見過ごされがちですが、平時の備えが何より大事で、これが私たち顧問弁護士の重要な業務の一つです。
次回、予防法務の観点から何をすべきか、支払停止の兆候が出始めた場合に企業としてどのような対応をすべきかお話したいと思います。
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