第30回メルマガ記事「有期雇用の活用1」 2018.10.11号
弁護士の内田です。
もう10月ですね。「そろそろ年末かぁ」と感じられている方も少なくないのではないでしょうか(ちょっと早いですかね(笑))。
本当に時間が経つのは早いもので、日々の仕事に追われているとすぐに時間が過ぎ去っていきます。社会人にとってタイムマネジメントはつくづく大事だと実感させられます。
書籍の名前は忘れましたが、経済的観点から見たとき、時間の使い方は大きく3つに分かれるようです。農業的な比喩を用いた考え方ですが、非常に示唆に富みます。
1つは「収穫の時間」。仕事をして売上を上げている時間ですね。もう1つは「種まきの時間」。すぐには売上につながらないが将来的に売上につながる活動をする時間です。最後が「休憩の時間」。休みです。
2番目の「種まきの時間」ですが、皆様は意識的にこの時間を作っておられるでしょうか。日々の業務に追われていると、「収穫」と「休憩」だけの日々になってしまいがちです。
他分野・関連分野の勉強をしたり、運動をして体力をつける、といった将来の可能性を広げるための時間である「種まきの時間」は意識的に作るようにしたいものです。
変化の激しいこの時代、収穫の後にまた同じように稲が実ってくれるとは限らないのですから・・・。
さて、本論ですが、10月は有期雇用の活用というテーマでお話します。
さっそくですが、経営者・経営幹部の皆様は、なぜ正社員(無期雇用)ではなく有期雇用者を採用するのでしょうか?
「景気の変動に応じて人件費を柔軟に調整したいから」「忙しい時期だけ人手が足りないから」・・・色々な理由があると思います。
ただ、「正社員に登用するために適正を見たいから。」という理由はあまり聴きません。
一般に、有期雇用者には短い一定の期間だけ働いてもらうというイメージが強いため、正社員化を前提とした有期雇用というのは聴き慣れないと思います。
また、そのため「正社員として適正を見たいなら試用期間を設ければよいではないか。」という意見が多数のようです。
しかし、実は試用期間には大きな落とし穴があります。試用期間というと何だか会社が適正なしと判断すれば簡単に本採用拒否ができそうなイメージがありますが、実は、法律上は本採用の拒否は「解雇」(正確には留保解約権の行使)に当たります。
勿論、通常の解雇よりは会社に裁量が認められますが、それでも判例上、原則として「会社が当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合において、そのような事実に照らしその者を引き続き当該企業に雇用しておくのが適当ではないと判断することが、試用期間の趣旨・目的から客観的に相当であると認められる場合」でなければ本採用拒否はできないと解されており、特に能力不足を理由とする本採用拒否は会社が負ける傾向にあります。
「え、じゃあ負けたらどうなるの?」ということですが、本採用拒否=留保解約権の行使は無効となり、裁判が終わるまでの賃金を支払わなければならなくなります。本採用拒否を違法無効として、会社に対して本採用拒否から裁判の終了までの賃金として750万円の支払いを命じた判決もあります。
このように、試用期間の制度は会社にとって一見使いやすい制度であるように見えて、実は使いづらい制度なのです。
では、どうするか。
ここで有期雇用の出番です。有期雇用・・・たとえば6か月ごとの更新の場合、期間の中途で一方的に雇用契約を解除すれば当然解雇になりますが、6か月の期間満了の際に「契約の更新をしない。」のは解雇に当たりません。
原則として、何の問題もなく会社を辞めてもらうことができます。
「原則として」というのは、例外的に雇止め法理というものが適用される場合には更新拒絶が違法無効と判断される場合があるからです。
雇止め法理とは、簡単にいってしまうと、たとえば更新契約書も作らずに何年も何回も契約の更新を繰り返しているなど実質的にみて無期と変わらない状態になっている場合や会社が有期雇用者に対して「形式的には有期雇用だけど実際には更新拒絶なんかしないから実質は無期だよ。」など労働者に対して継続雇用の合理的期待を与えるような言動をしていた場合に、解雇に準じて更新拒絶に厳しい要件を課すものです。
まずは有期雇用で雇い入れ、雇止め法理の適用があまり考えられない最初の1~2年で有期雇用者の人柄、協調性、能力などを把握して、正社員として頑張って働いてくれそうなら正社員に登用するという方法が、実は一番問題社員を会社で抱え込まないで済む方法なのです。
もちろん、この方法にもデメリットはあります。
それは、「優秀な人材が応募してこない。」ということです。
最近の若者は(私もまだまだ若者のつもりですが・・・)、賃金や仕事のやりがいよりも個人の時間、ライフワークバランスを大切にする傾向にあるようですが、それでも優秀な人材は正社員として募集しないと来ない傾向は否定できません。
ただ、某コンサルタントから聴いた話ですが、人材不足のこの時代、中小企業が初めから優秀な人材を採ろうと考えていてはダメで、会社の教育体制を充実させてどんな人でも優秀な人材になれる仕組み作りをしなさいと言っていました。
もし、そういった仕組み作りが出来れば、有期雇用募集のデメリットはあまりないのかもしれません。
有期雇用の活用ですが、実は、「問題社員を抱え込まない」という守りの面のみならず、お金ももらえるという攻めの面もあるのです。
「え、だれがお金をくれるの?」
答えは、もちろん、国です。
次回は、有期雇用者に関する助成金などについてお話いたします。
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